硫酸は犯罪だけでなく自殺にも使われることが(depositphotos.com)
2017年9月、過去に3人の男性に襲われ、顔面に「硫酸」をかけられ重傷を負った19歳のインド人女性が、ニューヨークで開催されたファッションショーに出演して注目を集めた。彼女は同じような被害にあった女性たちを勇気づけるためにステージに立ったとのことで、「大変幸せだった。美しさは単に外見だけではない。」とのコメントを残し、世界中に感銘を与えた。
硫酸をはじめとする「アシッド(酸)アタック」は世界中で頻発している
毎年「アシッド(酸)アタック」による被害者は、世界中で1500人以上に達している。特にインドやパキスタンをはじめとするアジア諸国、アフリカ、中南米諸国で多数認められる。
2014年、コロンビアでは、33歳の美しいファッションモデルが、男性ストーカーに日常から付きまとわれ、ある日、自宅前で、突然、硫酸を顔など全身に浴びせられた。事件後、彼女は、公に姿を見せることができなくなり、ファッションの仕事も辞めざるを得なくなった。一瞬にして彼女の輝かしい人生は、奈落の底に突き落とされたのだ。その後16回にわたる顔面の手術が繰り返され、現在も硫酸を浴びた痕跡が身体の4分の1に残っているとのことである。
我が国でも2015年4月に、群馬県で硫酸による連続傷害事件が発生した。44歳女性が、買い物途中に、突然、足の痛みを感じた。その1時間後には23歳の女性のストッキングが溶けており、足の痛みを訴え警察に通報した。その後の鑑定の結果、これらの犯罪には硫酸が用いられたことが判明した。
また殺人犯が証拠隠滅を図るために、硫酸を用いる事件も発生している――。1965年、東京都で28歳の技師が、35歳の同僚を口論の末に金槌で全身を殴打して殺害後、硫酸を満たした樽の中に死体を入れて溶解させようとした。後に樽の底に人骨の一部が発見され犯罪が発覚した。
自殺のために「硫酸」を飲むと悲惨な結末をたどることになる
25年ほど前に私が経験した症例を報告しよう――。50歳代の男性が、薬店で購入した硫酸を約120mL飲んで自殺企図した。約2時間後に家族が意識混濁し、吐血しているところを発見し、救急車を要請した。病院に搬送されたときは、意識消失、吐血、血圧低下、不整脈を呈していた。直ちに集中治療室に収容して、補助機械呼吸を開始した。下血も認め、2日後には肺炎を、その後、肝臓、腎臓などの機能が次第に低下し、搬送後4日目には多臓器不全に陥った。その翌日、意識が回復することなく鬼籍に入った。
また中国では23歳の男性が、友人との飲酒後、帰宅したが、まだ飲み足りないとして父親に酒を要求した。父親は誤って硫酸入りの瓶を渡した。結局、彼は約150mLの硫酸を飲んだ。その後、激しい腹痛、嘔吐を訴え、病院に搬送された。検査の結果、胃穿孔を認め、腹膜炎を併発していることが判明。緊急手術が行われ、一命をとりとめたが、胃の大部分の切除を余儀なくされた事件が報道された。