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【連載「歯科医療の革命~顕微鏡歯科治療」第1回】

「顕微鏡歯科治療」とは何か?見過ごされていた奥歯の虫歯を顕微鏡で発見

若い女性の歯と神経を救うことができた

 この症例に少し解説を加えます。 患者さんは親知らず以外には自覚症状がなく、歯科医院を受診しています。受診した歯科医院でも視診やX線写真による画像診断を受けましたが、左上の虫歯は発見されませんでした。

 そもそも虫歯はゆっくり進行し、進行しても自覚症状は出ないことが多くあります。特に奥歯の歯と歯の間にできる虫歯は表面から見えないだけでなく、冷たいものや甘いものも染み込みにくいので自覚症状が出にくいのです。また、X線写真を撮影しても虫歯周囲に硬いエナメル質が厚く残っていると、診断し難いのです。 この2つの理由から前医では発見されなかったと思われます。

 通常なら自覚症状もないのですから、紹介先の大学病院で親知らずを抜歯してもらうだけで安心してしまっていたことでしょう。しかし幸運にもこの患者さんは顕微鏡歯科医である当院でセカンドオピニオンを受けることになりました。

 肉眼では見えにくい奥歯の歯と歯の間の虫歯が顕微鏡歯科治療による拡大と照明で発見されたのです。肉眼では「ない」と判断された虫歯が顕微鏡歯科では「ある」との判断になったわけです。肉眼で「見えない」ものが顕微鏡では「見える」のです。見えにくいものが見やすくなるのではなく、見えないものが見えるようになるのです。つまり不可能が可能になるわけです。

 自覚症状もないし、前医では「特に問題はない」と言われていたわけですから、信じられない思いだったでしょう。しかし、顕微鏡歯科治療の画像による説明により納得して頂いて治療を開始することができました。ここも非常に大切な点で、どのような治療でも患者さんの同意がなければ進めることができません。

 治療を始めてみると、その虫歯は非常に深く、歯髄にまで進行していましたが、どうにか歯髄を助けることができました。この「Vital Pulp Therapy」については別の機会に解説しますが、これも顕微鏡がなければ成り立たない治療なのです。

 結果として顕微鏡歯科治療により、この若いお嬢さんの歯と神経を救うことができたのです。

 今回は顕微鏡歯科治療とはどのような治療なのかを実例を交えて解説しました。しかし、顕微鏡歯科治療の実力はこんなものではないのです。次回は顕微鏡歯科治療の歴史や仕組みについて詳しく解説します。

三橋純(みつはし・じゅん)

医療法人社団 顕歯会 デンタルみつはし 理事長。1989年、新潟大学歯学部卒業後、東京歯科研究会、三橋歯科医院(新潟市)、荒木歯科医院(東京都大田区)を経て2000年にデンタルみつはし開業。2006年、日本顕微鏡歯科学会理事、2009年、日本顕微鏡歯科学会副会長、2010年より「顕微鏡歯科ネットワークジャパン」発起人・認定医。主な著書に『顕微鏡歯科入門』、月刊「歯界展望」別冊『顕微鏡歯科を始めよう』、『写真でわかるラバーダム防湿法』、その他、雑誌への掲載論文多数。

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