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【シリーズ「これが病気の正体!」第9回】

【閲覧注意】30~40代にも少なくない「心筋梗塞」~喫煙者に多い突然死の恐怖~

【閲覧注意】若者も少なくない「心筋梗塞」で突然死~の画像1

心筋梗塞を発症した心臓(画像はモザイク加工のもの)

 これから朝夕の気温はぐっと下がり、冬に向かう。<血管のトラブル>が増加してくるシーズンだ。その代表的な病気のひとつは心筋梗塞。「虚血性心疾患」の一つである。喫煙者に多い!

 原因には生活習慣による動脈硬化があげられ、50代以上の患者が多い。最近は、若い人でも心筋梗塞を起こし、死に至るケースがみられる。

 著名人では、2013年に女優の天海祐希さん(当時45歳)が軽度の心筋梗塞で入院。2015年にはフジテレビ系のリアリティバラエティ番組『テラスハウス』(TERRACE HOUSE BOYS×GIRLS NEXT DOOR)に出演した今井洋介さん(享年31)が急逝している。

 今年(2017年)に入ってからも、女性落語家の露の雅(つゆのみやび)さんが1月に虚血性心疾患のため死去(享年35歳)。6月に元広島カープの河野昌人氏が虚血性心疾患で死去(享年39歳)。 9月には男子バレーボール元日本代表の谷村孝さんが心筋梗塞で死去した(享年35歳)。

 心臓を栄養する「冠状動脈」が詰まり、心臓を動かす心筋細胞に酸素供給ができなくなる結果、心筋細胞が壊死(えし)してしまう病気だ。

 症状は狭心症よりも強く、強い胸痛とともに、冷や汗・嘔吐・呼吸困難を伴う。狭心症は、虚血性心疾患のうち、可逆的な病態をさすが、心筋梗塞の危険度の高い病態といえる。

 虚血性心疾患を理解するためには、心臓に酸素豊富な血液を供給する「冠状動脈(英:coronary artery)」の構造を知っておくことが重要だ。左冠状動脈の「左前下行枝」は心臓の「前壁」を、左回旋枝は「側壁」を、右冠状動脈は「後壁」をそれぞれ栄養する。

 冠状動脈は冠動脈とも記載されるが、肝動脈と区別するために、「かんむり動脈」と発音される。

 ちょっとだけ専門的に述べてみたい。心臓の右心房付近で「ペースメーカー」の役目をする(規則正しく心臓が拍動するように命令する)「洞房結節」と、心房からの命令を心臓の拍動の主役である心室へと引き継ぐ「房室結節」(心臓の刺激伝導系の一部)はいずれも、右冠状動脈の枝から血液が供給される。

 というわけで、右冠状動脈が詰まって生じる後壁梗塞では、不整脈がよりおこりやすい。おわかりかな?

心筋梗塞は喫煙者に多い病気

 冠状動脈が閉塞する原因の多くは、粥状(じゅくじょう)動脈硬化症の粥腫(しゅくしゅ)の破綻に伴なう血栓形成による。心臓弁膜症などでできた血栓が冠状動脈に詰まる「血栓塞栓症」の場合は、動脈硬化のない心臓に心筋梗塞がもたらされる。

 タバコや薬物の影響で冠状動脈が異常に収縮してしまう「動脈攣縮(れんしゅく)」や小児期に多い川崎病の合併症である「冠状動脈瘤(どうみゃくりゅう)」によって心筋梗塞が生じる場合もある。

 今回のテーマ、若年層に生じる心筋梗塞は、冠状動脈の血栓塞栓症、攣縮や動脈瘤による頻度が比較的高い。

 喫煙は、長期的に動脈硬化を促進し、短期的に冠状動脈を収縮させる。その結果、動脈硬化による血管閉塞を助長する――ことを特に強調したい。心筋梗塞はタバコを吸う人に多い病気なのだ。

 心筋梗塞の死因としては、心不全、不整脈、心破裂(多くは発症後1週間以内に発生)、あるいは二次的に心臓壁にできた血栓が脳動脈に塞栓(そくせん)する脳梗塞があげられる。

 ここで注意すべきは「心筋梗塞」であることを証明するためには、発作からある程度の時間が必要な点だ。血液中のマーカーの変動がもっとも鋭敏である。

 亡くなったあと解剖して、肉眼的あるいは顕微鏡的に心筋壊死が証明できるようになるには、発症後6時間程度が必要とされている。逆に、それ以前に亡くなってしまうと、解剖してもよくわからない場合がある。

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AED(自動体外式除細動器)(depositphotos.com)

 ところで、街のあちこちに設置されている「AED(自動体外式除細動器)」の重要性は皆さんよくご存じだと思う。運転免許の更新のときに学ぶ機会があるし、いろいろなイベントでAED講習会が開催されている。

 AEDは、心臓マッサージを続けながら使うのが原則。突然、街中で倒れた人に遭遇したら……AEDの指示通り、胸に電極パッドを貼って電気ショックを与える。心臓の状態をAEDが自動的に判断し、電気ショックが必要かどうかを判断するから「電気ショック」への躊躇は無用だ。

 急に心臓が止まる原因には、じつは心筋梗塞以外に「心室細動」と呼ばれる重症の不整脈がある。心臓がこまかくふるえてしまい血液を送り出せなくなる状態だ。

 AEDは、心室細動を正常化する(正しい心臓のリズムに戻す)。心筋梗塞が原因で心室細動がおきる可能性もある。とりあえず、AEDで心臓を動かし続ければ、治療を受ける時間的なゆとりが生じる。

 だから、「心筋梗塞」で死亡したと診断される患者の一部は、致死的不整脈(心室細動)が原因だった可能性もある。

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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