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【シリーズ「窃盗症(クレプトマニア)という病」第3回】

万引き、窃盗症(クレプトマニア)の治療~すべての依存症に共通の「再発」2大リスク

すべての依存症に共通する<再発の2大リスク>

 「実はさまざまな依存症に共通して言えることは、『①やることがなくて退屈をもてあます』『②睡眠時間がきちんと取れなくなる』が、代表的な生活習慣の中での2大再発リスクなのです」(斉藤氏)

 では、この2大リスクを回避するには、どうすべきか?

 「朝、目が覚めて、<行くところがある>というのがポイントです。また、我々の専門外来を訪ねれば、同じ悩みをもつ人と体験を共有できます。そして「やめ方」を学ぶことができます。更に、クレプトマニアを克服しようとしているのは自分だけではない――と前向きな気持ちにつながります」

 「また、通院して治療プログラムを受けている――という姿から、治療に真剣に取り組んでいることを家族も感じ取り、家族支援グループ(KFG:Kleptomania Family Group-meeting)への参加率も上がり、病気に関する理解や治療への協力が得られるようになる。家族の関係性も、よい方に向かうことが多いようです」(同)

治療のスタートは万引きで捕まってから

 ところが、クレプトマニアの患者は、最初から治療プログラムを自主的に受けることは少ない。患者の多くは窃盗(万引き)で捕まり、刑事事件として刑事手続の過程において、保釈されてから通院するケースがほとんどだ。

 ならば、通院が裁判を有利にすすめるための単なるアリバイに陥らないか――そこで、大森榎本クリニックでは、裁判終了後も1年間の継続通院を患者と家族に誓約書に同意してもらってから治療を開始している。

 「治療プログラムの過程では、安全な日は『青色シール』、万引きをしそうになったら『黄色シール』、もし万引きしたら『赤いシール』、それらを各人がプログラムで用いるカレンダーに貼って、自身の<悪循環のパターン>を見つめ直します」

 「通院中の再犯は、これまで発覚したケースは1件。その方は、翌週に裁判を控えた中で再発しました。それも店員の目の前で万引きしています。我々は、このようなケースを『反省が足りない』『意志が弱い』という見方ではなく、それだけ重症であると判断します」

 「このような患者を断ることなく受け入れていけば、当クリニックの患者の再犯事例は増えるかもしれません。しかし、<居場所>や<受け皿>は絶対に必要です。特に高齢者のクレプトマニアは<孤独が最大の引き金>ですから」(同)

高齢者の万引きが社会問題に……

 斉藤氏によれば、たとえ数百円の万引きであれ、常習累犯窃盗で裁判を受けて刑務所に入ると、刑事手続きにかかる人件費も含めて、2~3年で2000万円以上の税金が使われることになる。

 窃盗症(クレプトマニア)患者が受刑しても、治療せずに再犯を繰り返せば社会的損失は甚大だ。そこに使われるのは、紛れもなく我々の納める税金である。

 2025年には、日本の人口の20%が「後期高齢者」。高齢者の万引きは大きな社会問題になることが予想される。

 「逆説的ですが、依存症の人は他人に頼るのが下手。<依存できる相手>、つまり、相談できる仲間や複数のつながりを持つ人は、依存症に陥りにくい。クレプトマニアも同じことが言えるでしょう」

 「万引きは許されない」と観念論をふりかざすだけでは、この問題は解決できない。医療モデルと司法モデルが連携して対応策を考え、全国に受け皿を作る必要がありそうだ。
(取材・文=里中高志)

斉藤章佳(さいとう・あきよし) 
大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」(東京都)で、精神保健福祉士・社会福祉士としてアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性依存・虐待・DV・クレプトマニアなどのアディクション問題に携わる。大学や専門学校で早期の依存症教育にも積極的に取り組む。講演も含め、その活動は幅広くマスコミでも取り上げられている。著者に『性依存症の治療』(金剛出版.2014)、『性依存症のリアル』(金剛出版.2015)その他論文多い。

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里中高志(さとなか・たかし)

精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉ジャーナリストとして『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。

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