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【連載「“国民病”腰痛の8割以上はなぜ治らないのか」第28回】

あなたの腰痛が慢性化するかを判定! 英国発の「9つの質問」が日本でも注目

9つの質問でリスクを判定する

 「スタートバックスクリーニングツール」の質問内容は以下の通りだ(注1)。

 ここ2週の間について考えてください(「はい」が1点、「いいえ」が0点)。

①ここ2週の間、腰痛が足の方に広がることがあった
②ここ2週の間、肩や首にも痛みを感じることがあった
③腰痛のため、短い距離しか歩いていない
④最近2週間は、腰痛のため、いつもよりゆっくり着替えをした
⑤私のような体の状態の人は、体を動かし活動的にあることは決して安全とはいえない
⑥心配事が心に浮かぶことが多かった
⑦私の腰痛はひどく、決してよくならないと思う
⑧以前は楽しめていたことが、最近は楽しめない
⑨全般的に考えて、ここ2週の間に腰痛をどれくらい煩わしく感じましたか?
:□全然(0点) □少し(0点) □中等度(0点) □とても(1点)  □極めて(1点)

 注目してもらいたいのが、この質問用紙に「腰の形」や「筋肉の強さ」などの項目は特にないことだ。この質問用紙を開発した研究グループは、腰痛が慢性化するかどうかは、心理、認知面や破局的思考などの心理的要因が影響すると考えているのだ。

 この質問で4点以上の場合、腰痛が慢性化してしまう可能性は「中・高リスク」。医療従事者は「心理面」を重視した治療アプローチをとることになる。それは、腰痛の考え方や必要以上の恐怖を改善することが治療のポイントになるからだ。

 一方、「低リスク」の人には、これまでの連載でも紹介してきたように「必要以上の安静はしないで普通に生活してください」「運動してください」などのアドバイスを行なっていく。

予想はできても自己診断はダメ

 簡単な質問に答えることで<腰痛が慢性化するかどうかのリスク>がわかり、慢性化の恐れのある思考をもつ人には、初めからそれに効果的なアプローチを行う――このように腰痛の慢性化がぐっと減る。

 世界的な医学雑誌『THE LANCET』には、この方法で腰痛患者を振り分けて治療したら、振り分けなかった場合に比べて効果が認められた――という研究結果が発表された(注2)。
 
 このように、腰痛が慢性化するかどうかは、事前にある程度予想できるかもしれない。9つの質問に答えて「高リスク」だった場合、専門家の治療や助言が必要だ。しかし、あくまでも自己判断せずに、専門家の診察、助言をしっかりと聞くべきであることは付け加えておく。

●参考文献
(注1)松平浩ら日本語版STarT(Subgrouping for Targeted Treatment)Backスクリーニングツールの開発―言語的妥当性を担保した翻訳版の作成―日本運動器疼痛学会誌 5(1), 11-19, 2013

(注2) Hill, J. C., Whitehurst, D. G. T., Lewis, M., Bryan, S., Dunn, K. M., Foster, N. E., … Hay, E. M. (2011). Comparison of stratified primary care management for low back pain with current best practice (STarT Back): A randomised controlled trial. The Lancet, 378(9802), 1560–1571.

連載「国民病”腰痛の8割以上はなぜ治らないのか」バックナンバー

三木貴弘(みき・たかひろ)

理学療法士。日本で数年勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の理学療法を学ぶ。2014年に帰国。現在は、医療機関(札幌市)にて理学療法士として勤務。一般の人に対して、正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。お問い合わせ、執筆依頼はcontact.mikitaka@gmail.comまで。

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