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うつ病「休職」の診断書を乱発!? 問題の本質は「逃げ道」の選択肢がないこと

残業が100時間、200時間は労働問題

 本書を読んでいけば、その問題意識は、「抑うつ反応」という診断が下されるべきケースがあまりにも多いのに、「うつ病」と診断されていることにあることがわかる。

 そして、「労務上の問題による不具合」をすべてうつ病に転嫁して診断書を出して休職しても、いつまでも本質は解決しない、と。毎月の残業時間が100時間とか200時間というのは、うつ病かどうかという精神医学上の問題というよりは、労働問題なのである。

 患者本人としては、そうはいってもつらいのだから「お前はうつ病じゃないと言われても……」と思うかもしれないが、「安易に休職しても職場の問題はいつまでも変わらないですよ」ということを中嶋医師は主張しているのだろう。

「休職という逃げ道」しか選択肢がないことが問題だ

 現在、休職と復職を繰り返し、一見元気そうに見えても、いつまでも職場に復帰できない人が増えているようだ。

 しかし、問題は休む方法が休職しかないという「0か100」かの労働環境にもあるように思える。休職という逃げ道を選ぶ前に、「無理なく働けるように環境を改善するべき……」というのは簡単だが、さりとて職場の雰囲気や慣行を変えるのは、決して簡単なことではない。

 働くことが苦しくても、働かないわけにはいかない……。そんな堂々巡りから逃げ出すためには、「『休職が必要』という診断書をゲットするしか方法がない」という企業社会の現状が、あるいは問題の本質のようにも思える。
(文=里中高志)

里中高志(さとなか・たかし)

精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉ジャーナリストとして『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。

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