残業が100時間、200時間は労働問題
本書を読んでいけば、その問題意識は、「抑うつ反応」という診断が下されるべきケースがあまりにも多いのに、「うつ病」と診断されていることにあることがわかる。
そして、「労務上の問題による不具合」をすべてうつ病に転嫁して診断書を出して休職しても、いつまでも本質は解決しない、と。毎月の残業時間が100時間とか200時間というのは、うつ病かどうかという精神医学上の問題というよりは、労働問題なのである。
患者本人としては、そうはいってもつらいのだから「お前はうつ病じゃないと言われても……」と思うかもしれないが、「安易に休職しても職場の問題はいつまでも変わらないですよ」ということを中嶋医師は主張しているのだろう。
「休職という逃げ道」しか選択肢がないことが問題だ
現在、休職と復職を繰り返し、一見元気そうに見えても、いつまでも職場に復帰できない人が増えているようだ。
しかし、問題は休む方法が休職しかないという「0か100」かの労働環境にもあるように思える。休職という逃げ道を選ぶ前に、「無理なく働けるように環境を改善するべき……」というのは簡単だが、さりとて職場の雰囲気や慣行を変えるのは、決して簡単なことではない。
働くことが苦しくても、働かないわけにはいかない……。そんな堂々巡りから逃げ出すためには、「『休職が必要』という診断書をゲットするしか方法がない」という企業社会の現状が、あるいは問題の本質のようにも思える。
(文=里中高志)