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【連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!」第9回】

かつて社会問題になった「割り箸事件」と同様の患者が救急搬入!もし脳に折れた箸が残っていたら!?

1999年の「割り箸事件」と同じく、1歳児の鼻に箸が刺さり救急搬入! もし脳に折れた箸が残っていたら……の画像1

1999年に起きた「割り箸事件」を彷彿とさせる患者が……(depositphotos.com)

 夜の8時ごろホットラインが鳴った。1歳の乳幼児が箸を持って遊んでいて前に転び、鼻を打撲した。持っていた箸の先がなくなったので、箸の先が鼻の奥に刺さったかもしれないというものである。

 口腔内や鼻腔内に箸などの棒類が刺さった可能性がある乳幼児の患者には、1999年に起きた「割り箸事件」が社会問題化して以来、ERドクターも非常に気を使うようになった。つまり、脳への異物浸入がないかの懸念である。患者の親も非常に神経質になり、可能性が否定できなければ病院を訪れることが多くなった。

 これは「杏林大病院割りばし死事件」とも呼ばれ、1999年7月10日に東京都杉並区で綿菓子を食べていた男児が転倒して、喉を割り箸で深く突き刺し、その後、死亡した事故のことである。救急車で搬送され先の医師が、割りばしが脳内に刺さっていることを予見できず、その後、刑事・民事訴訟で医師の過失の有無が争われたが、いずれも医師に過失はなく男児の救命は不可能であったとの判決が下った。

 しかし、このようなケースの場合、ほとんどは口腔内や鼻腔内には何も見当たらず、もちろん、脳への異物浸入などはない。ERドクターはホットラインの話を聞いて、おそらく鼻腔内に異物(箸の先)はないだろうと思った。

 しばらくして、患者が救急車で運ばれてきた。両親もついてきている。患者(1歳児)の鼻には外傷の痕があり、鼻出血の痕もあった。ERドクターが近づいて触ろうとすると泣き叫んで、診察さえもさせてもらえない状態であった。

 しかし、母親が抱いていると普通におとなしい状態である。付き添いの両親は、あの割り箸事件のことを口にし、「万が一脳に箸が刺さっていたら心配だから」と話している。

河野寛幸(こうの・ひろゆき)

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター理事長。
愛媛県生まれ、1986年、愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。

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