まともな判断力さえ奪われる<負のスパイラル>
高橋まつりさんは、亡くなる2カ月前からSNSに<辛さ>を書きつづった。自らの命を絶つに至るまでの心情が切々と伝わってくる。救いのシグナルを発していた。
それほど辛いなら、「会社を休む」「転職する」など、「そこまで追い詰められる前に何らかの対処できたのではないか」という声は必ず上がる。
確かに、客観的にはその通り。労働基準法の厳守を主張し、上司や上層部に働き方の改善を掛け合うことも、労働者の権利としてはできるはず――。
ところが、そうした判断力や気力、体力さえ奪われてしまうのが、過重労働の恐ろしさだ。
心身とも消耗し、自分では身動きが取れなくなる心理状態に陥る。不調を感じながらもズルズルと出勤を続け、さらに消耗していく<負のスパイラル>だ。
家族が見かねて病院に連れて行く、上司や同僚が休むように促す、友人がアドバイスするなど、周囲の働きかけがなければ、欠勤すら自発的にできない。
負のスパイラル断ち切ってくれる人がいなければ、最後は過労自殺に至る。うつ症状が現れるような前兆の段階における、周囲の理解と接し方は、自殺を防ぐ大きな意味を持つ。
決して自己責任だけにとどまらず、周りの人にもその役目が問われているのだ。
過重労働で奪われる思考力の恐ろしさ
そんな過労自殺にまつわる心のプロセスがよくわかるマンガが10月25日、ツイッターに投稿された。フリーのイラストレーター・潮街コナさんが、元電通社員の労災認定のニュースを受けて制作した『「死ぬくらいなら辞めれば」ができない理由』だ。
*潮街コナさんの作品 http://www.pixiv.net/member.php?id=240501
潮街さんは、広告制作会社で月100時間近くの残業をしていた頃の自身の体験をもとに、このマンガを描いた。全8頁には、長時間働き続けるうちに思考力が奪われる恐ろしさや、そこまで追い込まれないための対処法が載っている。
過重労働に悩む人だけでなく、多くの人に読んでもらいたい。人知れずこうした苦しみを抱えている人が、あなたの近くにいるかもしれないからだ。
<ムリっぽいと思ったら、安全な場所でとにかく座り込む。それだけでいい!! 救急車で運ばれてください 緊急事態には違いない>
経験者の潮街さんだからこそ伝えられるエピソードが印象深い。
(文=編集部)