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【連載「眼病平癒のエビデンス」第16回】

「老眼」の手術は必要か? どの手術も「治す」のではなく「軽減」が目的だという認識を

老眼対策の2種類の手術法

 老眼対策の手術はいくつかありますが、「目の中にレンズなど何かを挿入する方法」と「水晶体を摘出したり角膜を削ったりする治療」に分けられます。

 人間の目は角膜と水晶体で外から入る光を曲げて、網膜に映像を写します。よって、手術をする場合、主に角膜と水晶体がターゲットとなります。

【1】水晶体の手術

①白内障手術(多焦点眼内レンズ)

 白内障とは水晶体が濁る病気で、主に加齢変化で起こります。手術は、濁った水晶体の中身を取り除き新しいレンズ(眼内レンズ)を入れる治療です。この眼内レンズは、保険診療で行う通常の手術では単焦点のレンズを入れるため、術後に老眼鏡や運転用のメガネが必要になります。

 一方、単焦点眼内レンズの代わりに多焦点眼内レンズを入れると、遠くも近くも見えるので、老眼対策になります。現実的には、すべての距離にピントが合うとは限らず、鮮明に見るためにはメガネが必要になることがあります。また、多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は、自費診療になりますので、両眼で数十万円の自己負担が必要になります。

 手術自体は通常の白内障手術と変わらないので、合併症も少なく安全な治療と言えます。老眼の治療を希望する方で白内障があり、必要に応じてメガネをかけても良いのであれば、お勧めの治療の一つです。

【2】眼内にレンズ等を挿入する手術

①アキュフォーカスリング(AcuFocus Ring)

 クリニックによっては「カメラやリーディングアイ」と呼ばれています。アメリカのAcuFocus社が開発した老眼治療用のリングです。レーザで角膜にポケットを作り、その中にリングを挿入します。直径3.8mmの黒い円形のリングで中心に穴が開いています。その穴を通して見ることで焦点深度が深くなり、近くが見やすくなるしくみです。

 通常は片目に挿入しモノビジョンの状態を作ります。元々両眼とも視力が良い人は、レンズを挿入した目で近くを見て、他方の目で遠くを見ることになります。近眼が強い人は、同時に角膜を削るレーシックを受ければ、遠くも近くもだいたいは見えます。慣れるのに時間がかかることや細かい物を見る時にはメガネが必要になることがあるようです。不具合があれば、摘出することができますが、瘢痕を残すとの報告もあります。

②レインドロップ(raindrop)

 アメリカのReVision Optics社が開発した老眼治療用のレンズです。直径2mmの透明なレンズで、角膜に埋め込み、角膜の形状を変えることで近くが見えるようになります。やはり、片目に挿入しモノビジョンの状態を作り、遠くも近くも見えるようにします。

 アキュフォーカスリングやレインドロップともに、現在のレンズでは残念ながらハロー・グレア(にじむ、ぼやける)やドライアイの症状が出ることがあります。光学的には「収差」と言って、色合いの変化、像のぼやけ・歪みなどを増やすとの報告もあります。

③眼内コンタクトレンズ

 虹彩と水晶体の間にコンタクトレンズと似た素材のレンズを挿入する手術です。挿入するレンズが多焦点レンズであれば、遠くも近くも見えることになります。角膜を削ったり水晶体を摘出したりしないので、不具合があり、レンズを摘出した場合はほぼ元に状態に戻ります。

 しかし、見え方の質にはまだ改善の余地があり、細かい物を見る場合は、メガネが必要になることがあります。本法は、まだ症例数も少なく術後成績や合併症など詳細は不明であり、標準治療とは言えません。

【3】角膜を削る手術

①モノビジョンレーシック

 両眼ともに近視の人が対象になります。片目は遠くが見えて、片目は近くが見えて、両目で見ると遠くも近くも見える状態を人工的に作るのが、モノビジョンレーシックです。主に利き目で遠くを見えるようにし、他方の目で近くを見えるようにします。例えば、両目が近視で、近くを見る時にメガネを外して見ている方は、利き目のみレーシックで近視を減らします。他方はレーシックは行わず近視のままにしておきます。

 利点は、遠くも近くもメガネ無しである程度は見えるようになることです。主な問題点は、下記の様なものがあげられます。

●モノビジョンの見え方に慣れるのに少し時間がかかることがある(1~3か月)。
●左右差の許容範囲が個人で異なります。あまり左右差が大きいと慣れることが難しくなります。
●遠くを鮮明に見たい(長時間運転をする)方や手元の細かい作業を長時間する方には向いていないと考えられています。
●両目で鮮明に見た時に比べて見え方の質が落ちる可能性があります。
●レーシック共通の問題点として、ドライアイやハロー・グレアと言った症状が出ることがあります。これは一時的な場合と半永久的に続く場合があります。
●見え方に不満があっても、一度削った角膜を元に戻すことはできません。

②老眼用レーシック

 通常の近視矯正のレーシックでは角膜を均一に削りますが、老眼用のレーシックでは同心円状に近視用・老眼用・近視用……というように、削る深さを変える特別のプログラムを用いてレーザを照射します。本法は、まだ症例数も少なく、術後成績や合併症など詳細は不明であり、標準治療とは言えません。

すべての人が満足する術式はないのが現状

 今回は、老眼対策の手術について解説したが、いずれも保険診療ではないので、高額な自己負担が必要になります。また、術後の症状(ドライアイ、ハロー、グレアなど)やメガネの併用が必要である点などから、決してすべての人が満足する術式はないのが現状です。

 手術を考えている方は、利点・問題点を良く確認し、できれば術後の見え方をシミュレーションしてもらい、自分に適しているか良く考えてから決めることをお勧めします。

 最後に、いずれの方法も「治す」のではなく、「軽減する」程度ですので、メガネが必要になることがあるということを忘れないでください。

連載「眼病平癒のエビデンス」のバックナンバー

高橋現一郎(たかはし・げんいちろう)

くにたち駅前眼科クリニック院長。1986年、東京慈恵会医科大学卒業。98年、東京慈恵会医科大学眼科学教室講師、2002年、Discoveries in sight laboratory, Devers eye institute(米国)留学、2006年、東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科診療部長、東京慈恵会医科大学眼科学講座准教授、2012年より東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科診療部長。2019年4月より現職。
日本眼科学会専門医・指導医、東京緑内障セミナー幹事、国際視野学会会員。厚労省「重篤副作用疾患別対応マニュアル作成委員会」委員、日本眼科手術学会理事、日本緑内障学会評議員、日本神経眼科学会評議員などを歴任。

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