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【連載「死の真実が“生”を処方する」第27回】

遺伝子検査は「高価な占い」? あなたの運命は生活習慣次第で変わる!?

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予防的乳房切除術を行ったアンジェリーナ・ジョリーさんTinseltown / Shutterstock.com

 遺伝子検査を行うと、がんにかかりやすい体質かどうかなどがわかります。がんを発症していたわけではなくても、将来、がんになることを恐れて、予防のために発症が見込まれる部分を切除する人もいます。

 2013年5月に米国のハリウッド女優であるアンジェリーナ・ジョリーさんが、左右の乳房切除術を受けたことを発表し話題になりました。ジョリーさんは遺伝子検査を行ったところ、乳がんや卵巣がんにかかりやすい体質であったことがわかったとのことで、乳がんを発症していたわけではありません。

 将来、がんになることを恐れて、予防のために左右の乳房を切除したのです。この事実が報道されると、遺伝子検査や予防的乳房切除術について、大きな議論となりました。

病気の発症に関係している遺伝子は全体の2%

 遺伝子の本体はDNAであり、生命の設計図と言われています。人間の体には約60兆個の細胞がありますが、体のどの細胞にもDNAがあります。ひとりの人間は、どこの細胞も同じDNAです。そして個人ごとに違いがあり、さらに一生で変わることがありません。ですから指紋と同じように個人識別に利用できるわけです。

 以前はDNAを抽出するのに、その人の血液から採取していました。しかし、近年では主として口腔粘膜の細胞を採取し、その中に含まれているDNAを抽出することができるようになりました。医師や医師の指示のもとに行われる採血という手続を踏まなくてもDNAが抽出できるようになったのです。

 遺伝子の本体であるDNAのうち、体の特徴や病気の発症に関係しているのは、すベての遺伝子のわずか2%にすぎないそうです。さらに、ある遺伝子配列のたったひとつの塩基が異なっているだけで、重篤な病気を発症することがあるのです。

 たとえば、生まれつき痙攣を多く発症し、筋肉の緊張が低下し、さらに運動が正常に行えないなどの病気があります(ミトコンドリア病と言われています)。

 これらの多くは、細胞の活動や増殖に必要なミトコンドリアを作るDNAのたったひとつの塩基が変異する(ほかのものに置き換わる)ことで、正常な働きができずに病気を発症するのです。

 このように、疾患の発症原因が遺伝子の異常によって診断される病気が確実にあります。

 さて、がんについて考えてみます。多くのがんは、関係する遺伝子の変異によって生じますが、生まれつきの要因で起こるだけでなく、環境要因などの影響を強く受ける、いわゆる多因子疾患です。

 冒頭でお話しした乳がんですが、日本人女性の約18人に1人が生涯のうちに罹患するといわれています。そのうちの5~10%に遺伝要因が強く関与しているといわれ、その中で最も多いのがBRCA1およびBRCA2という遺伝子です。これらの遺伝子に変異があると、乳がん発症のリスクが3~11倍になることがわかっています。

 アンジェリーナ・ジョリーさんは、この遺伝子に変異があり、乳がんの発症を恐れて乳房を切除したのです。

 同様に肥満や高血圧などの生活習慣病なども、特定の遺伝子変異があると発症の危険性が高くなることが近年の研究でわかってきました。しかし、生活習慣病のほとんどは、環境要因の影響が大きい多因子疾患です。

 すなわち、特定の生活環境要因が加わることで発症の危険性は高くなり、逆に遺伝的に発症しやすい場合でも生活習慣を適切なものにすれば発症を抑えることができます。

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)

滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。社会医学系指導医・専門医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

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