除細動までの時間が1分遅れるごとに7~10%救命率が下がる
「心肺停止に陥ったあとの除細動が1分遅れるごとに、救命率は7~10%ずつ下がっていきます。このため、10分以上放置されるとほとんど助からないことになってしまいます。現在の日本では、AEDによる除細動は通常、救急車が来てから行われます」
「通報後救急車が現場到着まで平均10分以上かかっていますので、 現在の日本の平均救命率は 1~2%でしかありません」と、河野部長は説明する。
ところが、世界で最も救命率の高いところがあるという。アメリカのある国際空港では人が倒れてからの救命率が70%に及んでいる。
「国際空港だから、人がたくさんいます。急に倒れた人がいると誰かがすぐに見つけてくれます。その後、すぐに誰かがAEDを取りに行くのですが、どこで倒れても平均3分でAEDを取りに行って戻ってこられるように、たくさん設置されている。倒れてから平均 3分で除細動がかかるため、救命率は70%に及びます」(河野部長)
日本では、2004年に一般市民のAED使用が解禁されてから、2014年末までに累計で63万6000台が販売されている(厚生労働省の推計)。対人口比では、世界でもトップクラスの設置状況だ。
消防庁がまとめた平成26年度の統計では、心停止が発見されてその場でAEDが使用された場合の救命率は50.2%。これは救命措置が行われなかった場合の4.5倍を超える。ところが、心停止時点を目撃された人のうち、実際にAEDを使用されたのはわずか3.6%に過ぎない。
AED導入10年という節目に組織された「減らせ突然死プロジェクト実行委員会」が、医師を対象に行った調査(2107人が回答)によると、実際にAEDを利用する局面に出くわしたら、約2割の医師が「自信がない」「できない」と回答したという。
救命救急の基本中の基本でありながら、そのプロフェッショナルである医師でも、実態はこうなのだ。『AEDによる心肺蘇生はできて当然?約2割の医師は「自信がない」「できない」』
AEDの台数は非常に多いが、使われなくては、まさに宝の持ち腐れだ。
現実的に救命率を上げる方法は?
では、我々にはどうすることもできないのか? 救急車の到着を待って手遅れとなるAEDに、大切な人あるいは眼前の瀕死の人の命をゆだねるしか術はないのか?
河野部長は、「AEDが届くまでに、救助者が傷病者に質の高いCPR(心肺蘇生法)を行えば、何もしない時に比べ救命率は2~3倍高くなる。高額な機器を買う必要はありません。心肺蘇生に関する実践的な正しい教育を受ければ大丈夫」という。
CPRは、特殊な器具や医薬品を用いずに行う一次救命処置(BLS)と、救急救命士や医師が行う医療機器を用いて行う二次救命処置(ALS)に大別される。
BLSでは、主に心臓マッサージ(胸骨圧迫)を行い、熟練者は呼吸の補助方法である人工呼吸も行う。病院・消防署・自治体などで、一般向けに講習会が開かれていることが多い。チャンスがあれば参加してみてはどうだろう。救えるかもしれない命がきっとあるはず。
(文=編集部)