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【シリーズ「最新の科学捜査で真犯人を追え!」第13回】

なぜ指紋が「動かぬ証拠」になるのか? 死体に付いた犯人の指紋さえも検出する驚異の鑑定力

死体に張り付いた犯人の指紋もくっきりと見えてくる

 かつて殺害死体などに付着した犯人の指紋を暴くのは、絶対に不可能だった。その難問を見事に解決したのが、茨城県警本部科捜研・首席鑑定官だった益子賢蔵(ましこけんぞう)RTXラボラトリー所長だ。

 1991年、「科捜研OBの益子先生」は、四酸化ルテニウム(RTX)という化学物質を気化させて指紋を浮かび上がらせる万能潜在指紋検出液「Developer」を世界に先駆けて研究・開発した。「Developer」は、四酸化ルテニウムが油脂類に触れると、褐色または黒色に変わる原理を活用した指紋検出液だ。つまり、四酸化ルテニウムは、肉眼で見えない潜在指紋の脂肪分とスピーディに反応するため、犯人の指紋をくっきりと浮き上がらせる。

 人体の皮膚はもちろん、普通紙、感熱紙、布、皮革、ガラス、プラスチックから、ビニールテープ、ガムテープの両面、木製品、金属、石、壁まで、相手を選ばない万能の鑑定力を秘めた、まさに指紋鑑定のスーパーマンだ! しかも、湿気で濡れた表面の指紋でもOK。その検出精度は、紙や布に付着している指紋検出に昔から使われてきたニンヒドリンの3~5倍もの高精度という。

 アメリカで連続絞殺事件が発生した時に、被害者の皮膚から指紋を割り出し、絞殺犯人を特定したのが「Developer」だ。FBI(連邦捜査局)や映画『007』で知られるSIS(イギリス情報局秘密情報部/MI6)も正式に採用。今や世界中の法医学界や科学捜査の現場で最高峰のクオリティと絶賛されているスグレものだ。パトリシア・コーンウェルの『検屍官』シリーズやTVドラマ『CSI:科学捜査班』でも度々登場している。

 遺留指紋の鑑定は、1970年代までは手作業だったため、数カ月かかることも少なくなかった。現在、検出された遺留指紋は、1982年に導入されたコンピュータによるAFIS(自動指紋識別システム/エイフィス)によって、警察庁が保存する検挙者データベース(約1020万人)と照合される。指紋画像の撮り込みから、画像解析、特徴点抽出、照合、鑑定まで1件当たりわずか0.1秒。本人受理率99%以上、他人受理率0.0002%以下の高い照合精度だ。

 現場ですぐに照合できるモバイルAFISも登場し、迅速・確実・安全・公平・高精度な指紋識別が進められている。ただし、現場で採取された指紋は、複数の指紋鑑識官が肉眼で目視・判断したうえで、指紋鑑定の結果を最終的に決定している。

 近年、人の脂肪分の絶縁性を活用した画期的な指紋鑑定法も発表され、指紋鑑定のイノベーションと進化に興味は尽きない。機会があればいずれ紹介しよう。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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