原発巣から広がる経路も不気味
原発巣から転移巣への流れ(経路)は大別して3タイプがある。「リンパ行性転移(lymphatic metastasis)」と「血行性転移(hematogenous metastasis)」と「播種(seeding)」のいずれかを辿ってがん細胞は増殖を繰り返していく。
全身に張り巡らされたリンパ管の要所要所にあるリンパ節は、通常、免疫機能で細菌などの病原体と戦い排除する役目を持つ。しかし、がん細胞に敗れて増殖を許せば「リンパ節転移」が起こり、さらにリンパ管を伝って次のリンパ節へ……。
これがリンパ行性転移だ。通常は原発巣の最寄りのリンパ節から転移が始まるため、大腸がん手術の場合は発生部位を切除すると同時に周辺のリンパ節も取ってしまうのが通例だ。
一方、がん細胞が浸潤して壁内の毛細血管に入り込み、血液の流れに便乗して他所の部位へと増殖していくのが「血行性転移」。大腸から流れ出る静脈血はまず肝臓に至る流れから、最も転移の多いのが肝臓(村田さんの例もおそらく)となり、次いで肺という順だ。
一方、播種は元来「(作物の)種蒔き」の意味だが、医学的にはウイルスやがん細胞などが原発巣から離脱し、体液の流れに乗って体全体に広がったり、他の臓器に転移する様を表わす。
腸管の壁さえも突き破り、腸の外部まで参上したがん細胞はやがて腹腔(腹中の空間)へ零れ落ち、腹膜上に種を蒔くように広がっていく。
腹膜は腸や胃をくるむ膜だが、こうなれば「腹膜播種」あるいは「がん性腹膜炎」状態で、お腹全体が侵されてしまう。
よく耳にする「腹水が溜まる」や「お腹が張る」という苦痛は、播種で増殖するがんが水を出すためのもの。がんが内臓を圧迫するにつれ、食べ物や便の通りもやがて悪化していく。
こうして広がり方やその経路も多種な大腸がん。故人の死因がなぜ報道ごとで微妙に違うのか、その事情がお分かりいただけたと思う。村田和人さんの御冥福をお祈りしたい。
(文=編集部)