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ドラマ『フラジャイル』で考える患者の“知らない権利”~正確な病理診断が残酷な結果を伝えることも

患者には「知る権利」と同様に「知らない権利」や「知りたくない権利」もある

 「患者にとって病理診断は“決定的”なのです。『標本の向こうに患者がいる』。病理医には、患者の不安を感じとり、『知らない権利』にも配慮できるかが求められています」

 堤教授は、患者の「知らない権利」「知りたくない権利」について、「もちろん、医療者や研究者が勝手に遺伝子検査をして、遺伝病をみつけて、本人や家族に勝手に知らせるなどもってのほか。成人になってから発症する遺伝病が、いちばん厄介ですね」と指摘した上で、以下のような症例を挙げる。

 「たとえば、『家族性アミロイドーシス』という末梢神経の麻痺をきたす疾患や『ハンチントン病』という認知症をきたす疾患は“優性遺伝”します。家族性大腸ポリポーシスでも同じことがいえます。発症するのは、患者さんに子どもができたあとのことが多い」

 「これらは、ほんの一滴の血液を調べるだけで、簡単にDNA診断(遺伝子診断)できてしまう。『あなたは40歳になったら足がしびれます、頭がぼけます、大腸にがんができます、子どもには病気が遺伝します』と告げられたら、たいていの人は困惑するでしょう」

 さらに、次のようなケースも実際にあった。

 「67歳の男性が胃がんで亡くなり、病理解剖が行われました。がんの広がりを調べるのが解剖の主たる目的でした。骨盤臓器を調べたところ、思いもよらず“子宮”がみつかったのです。この患者は生涯男性として過ごしましたが、実は『真性半陰陽』(男と女の中間)だった可能性があるわけです」

 「病理解剖診断書のコピーを遺族に渡すときに、子宮があったことを記述すべきでしょうか? この衝撃の事実を知って喜ぶ人はいないだろうことが、容易に想像されます」

 そして堤教授は、「遺族に渡す診断書は、“子宮の存在”に関する考察の部分をはずした遺族用の書類を別につくるべきでしょうか? これは『カルテ改竄』に当たる違法行為です。『知らない権利』を守るというのは、とても難しいのです」と話してくれた。

 患者の「知りたい権利」を満たしつつ、「知りたくない権利」も守る――。病理医には、そんな難題が降りかかることもあるのだ。
(文=編集部)

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