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医療ドラマ『フラジャイル』第5話のモデルとなった実話~患者の本音を訊くということ

患者の本音を訊くということ……

 「実は、今回の症例のモデルは、私が体験した患者なのです。30代の独身女性で、後腹膜原発だった。ひょんなことから彼女の腫瘍のセカンドオピニオンを受けることになり、それ以来、彼女が亡くなるまでの2年間、メールでくりかえしやりとりをした」

 患者との交流が続いた2年間、堤医師は、医療従事者として、そして友人としての苦悩が尽きなかったという。

 「患者の本音をいやというほど訊くことになったし、患者が医療者や家族にいかに過剰な気を遣うかもよくわかった。最後のころは『痛いよ、怖いよ、つらいよ』という言葉がとぎれなかった。プロの医療者として、友人として、どう答えたらいいのか、なかなか答えがみつからなかった」

 そして、彼女の末期治療は、以下のように行われた。

 「この女性患者には、末期にオクトレオチドが使用された。使用目的は、腫瘍に対する治療でなく、腫瘍増殖に伴って生じた腸閉塞(イレウス)に対する治療だった。そう、オクトレオチドは、腸閉塞の治療薬でもあるのです。ちょっと皮肉ですね。よかったら、拙著『堤先生、こんばんはo(^-^)o 若き女性がん患者と病理医のいのちの対話』をご覧ください」

 なお、本書の内容のかなりの部分は、Google Bookでも読むことができる。

 医療は万能ではない。また、患者の経済力によって受けられる医療にも限りがある。そんなことを痛感する。
(文=編集部)


堤寛(つつみ・ゆたか)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。

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