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【シリーズ「血液型による性格診断を信じるバカ」第2回】

ネットで話題「血液型と性格にはやはり相関性がある」の論文を徹底検証

 論文の客観的な評価には2つの指標がある。第一は代表的な権威ある雑誌に紙媒体として載ったかどうかだ。雑誌そのものの評価には「インパクト・ファクター(IF)」といい、その雑誌が他の専門誌に何回引用されているかという指標がある。2014年の「ネイチャー」のIFは41.45、「ランセット」は45.22、NEJMは55.87、ProNasは9.67、PLOS oneは3.53だ。この数値はたとえればテレビの視聴率のようなものだ。
 
 もう一つは「サイテーション・インデックス(CI)」といい、論文そのものが他の研究者によって何回引用されたかを示す。重要な論文ほど引用される回数が多くなる。

 土嶺の代表的論文である「ドーパミンD2受容体の多形性と健常日本人の個性との関連」という英語論文10)について、IFとCIを調べてみた。この雑誌の2012年のIFは3.55で、大して読まれていない。論文のCIは2015年までにたった2回で、一つは東北大学の日本人研究者たちによる論文。もうひとつは引用論文が200本近くあるフロリダ大学のK.ブラムらによる総説論文で、土嶺論文が引用してあるが、多数羅列した中のひとつに過ぎず内容への評価はない。
 
 ホブグッドは同じ医科大学で相変わらず「仮説論文」を発表しているが、他に相手にする研究者はいないようだ。2011年以来、彼女が発表した論文はたった3篇で、すべて「仮説論文」であり共著者がいない。これで彼女の研究環境がわかるだろう。その「仮説論文」のCIは1。つまりこの論文を引用ないし「本気にした」論文は「PubMed」を調べた限り世界で1本だけ。それがこの土嶺論文である。
 
 科学研究を進めるにはよい仮説が必要だ。「よい仮説」とは、その仮説を否定するためにはどのような実験が必要かを明示したものをいう。さもないと「仮説」と称するデマやトンデモがはびこり、科学界に害毒を流す。ホブグッド論文はそういう例のひとつだ。

 以上見てきたように、土嶺特別研究員の過去の研究は、すべて欧米の論文を見て、それを「健常日本人」に適応した「本邦初演」型の研究だ。これを医学界では「カッパのへそ」と呼ぶ。カッパのへそは、まだ誰も見たことがない。だから珍しい。

 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」、これも「研究者の思い込み」が作り出した幻にすぎない。次回は「血液型・気質相関論」がなぜ蔓延るにいたったかを見ていく。

シリーズ「血液型による性格診断を信じるバカ」バックナンバー

【参考文献】
【注1】Tsuchimine S. et al.(2015):ABO blood type and personality traits in healthy Japanese subjects. PLOS one. 5/15/2015(e-pub)
【注2】Hobgood D.K.(2011):Personality traits of aggression-submissiveness and perfectionism associate with ABO blood groups through with catecholamine activities. Medical Hypotheses. 77(2):294-300
【注3】Wilson A.F. et al. (1988):Linkage of a gene regulating dopamine-beta-hydroxylase activity and the ABO blood group locus. Am. J. Gent.42(1):160-166
【注4】 Perry S.E. et al.(1991):Linkage analysis of the human dopamine beta-hydroxylase gene. Genomics, 10(2):493-495
【注5】Yamamoto M. (2000): Molecular genetics of ABO. Vox Sang.78(Suppl.2):91-103
【注6】Segurel L. et al.(2012): The ABO blood group is a trans-species polymorphism in primates. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109(45):18493-18498


難波紘二(なんば・こうじ)

広島大学名誉教授。1941年、広島市生まれ。広島大学医学部大学院博士課程修了。呉共済病院で臨床病理科初代科長として勤務。NIH国際奨学生に選ばれ、米国NIHCancerCenterの病理部に2年間留学し血液病理学を研鑽。広島大学総合科学部教授となり、倫理学、生命倫理学へも研究の幅を広げ、現在、広島大学名誉教授。自宅に「鹿鳴荘病理研究所」を設立。2006年に起こった病気腎移植問題では、容認派として発言し注目される。著書に『歴史のなかの性―性倫理の歴史(改訂版)』(渓水社、1994)、『生と死のおきて 生命倫理の基本問題を考える』(渓水社、2001)、『覚悟としての死生学』(文春新書、2004)、『誰がアレクサンドロスを殺したのか?』(岩波書店、2007)などがある。広島大学総合科学部101冊の本プロジェクト編『大学新入生に薦める101冊の本』(岩波書店、2005)では、編集代表を務めた。

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