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【シリーズ「血液型による性格診断を信じるバカ」第2回】

ネットで話題「血液型と性格にはやはり相関性がある」の論文を徹底検証

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土嶺論文は「河童のヘソ」shutterstock.com

 昨年、“血液型と性格にはやはり相関性がある”とネットで大きな話題となった、弘前大精神科・土嶺章子(特別研究員)らによる「PLOS one」掲載論文「健常日本人におけるABO血液型と人格特性【注1】」の内容を検討したい。

 米NIHの論文検索エンジン「PubMed」によると、彼女は2007年以来44本の英文原著論文を雑誌に発表している。うち筆頭著者になっているものが12本あり、数の上では素晴らしい業績だといえる。

 非常に専門的な内容なので、ここではまず彼女の研究の流れを概説する。2008〜13年にかけては脳内でニューロン間の刺激伝達に関係する物質として、カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)やインドールアミン(セロトニンなど)の血液中(?)濃度レベルが気質・気性に与える影響を研究していた。ところがこれをニューロンにあるアミン受容体の遺伝子変異にまで踏み込んで調べても「ネガティブ・データ」しか得られなかった。

 科学の世界では「ダメだった」という論文は基本的に評価されない。「ダメだ」とか「ない」ということは、原理的に証明できないからだ。こうした「陰性報告」が掲載されるのは二流学術誌か経費のかからない電子雑誌だけだ。

 ところが彼女は2014年から突然分野変えをして、ホルモンや血液型(ABO式)といった精神科とはまるで関係のない分野の研究を始めた。普通、分野変えをしたら、最低でもその分野の基礎的文献を読み、新技術を習得する必要があるので、他の研究室に席を置くか、あるいは留学などをするものだが、彼女にはその形跡がない。

 「PLOS one」は電子雑誌であり、紙雑誌と異なり投稿から掲載までの時間が短いこと、査読者が1名なので審査が厳しくないという特徴がある。問題の論文が不審なのは、投稿日が2014年9月29日なのに、受理されたのが2015年4月9日、電子版で掲載されたのが5月15日と、7カ月以上かかっていることだ。「ネイチャー」「ランセット」「ニューイングランド医学雑誌」のような紙の週刊誌でも、問題のない論文ならこれほど時間を要することはない。

ABO式血液型と神経伝達物質の濃度を決める両遺伝子が関連?

難波紘二(なんば・こうじ)

広島大学名誉教授。1941年、広島市生まれ。広島大学医学部大学院博士課程修了。呉共済病院で臨床病理科初代科長として勤務。NIH国際奨学生に選ばれ、米国NIHCancerCenterの病理部に2年間留学し血液病理学を研鑽。広島大学総合科学部教授となり、倫理学、生命倫理学へも研究の幅を広げ、現在、広島大学名誉教授。自宅に「鹿鳴荘病理研究所」を設立。2006年に起こった病気腎移植問題では、容認派として発言し注目される。著書に『歴史のなかの性―性倫理の歴史(改訂版)』(渓水社、1994)、『生と死のおきて 生命倫理の基本問題を考える』(渓水社、2001)、『覚悟としての死生学』(文春新書、2004)、『誰がアレクサンドロスを殺したのか?』(岩波書店、2007)などがある。広島大学総合科学部101冊の本プロジェクト編『大学新入生に薦める101冊の本』(岩波書店、2005)では、編集代表を務めた。

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