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医療ドラマ『フラジャイル』はどこまで正確? 治療開始後も顕微鏡を覗き続ける病理医

 ドラマ仕様に話をオーバーに“盛っている”シーンは大目にみても、実際の現場からの判定は当然手厳しい。

 「診断が確定しない時点でも治療は始めますが、それにしても結核を否定してから抗TNF-alpha(免疫抑制剤)治療を始めるのは当然でしょう。臨床所見、潰瘍の形状・分布・部位などがとくに重要視されます」

 「内視鏡的に潰瘍性病変があって、そこから狙って生検しているのなら、正常粘膜だけ採取されることはない。仮にそうだったら“ヘナチョコ”内視鏡医です。そして、潰瘍も肉芽腫がみつからないのに、チール・ネルゼン染色(結核菌を染め出す抗酸菌染色)で組織の一部に菌がみえることは金輪際ないでしょう」

 「生検標本に肉芽腫がみられたら、クローン病の確定診断ができるように描かれていましたが、とんでもない。肉芽腫がみつかったら、クローン病以外に結核、サルコイドーシス(全身性の肉芽腫性疾患)などの鑑別診断が大いに問題になります」

 「今回のストーリーは多少ずれた症例設定になっていましたね。だいいち、今どきBCG接種しているから結核菌には感染しないと思い込んでいる医師がいるなんて……ありえません!」と堤教授。

 そう、このBCG関連のシーンは、素人目でもちょっと不可解だった。事実、守備範囲の広い病理医は、日々の診断のなかで難しい症例に遭遇することも間々ある。自分の得意分野も送られてくれば、不得意分野の疾患に遭遇する事例も当然ながらある。

 「そうした場合、自分一人で『エイヤッ!』と診断することはまずありません。仲間や先輩に相談して、必要ならその分野を専門とする病理医に標本を送って真摯に意見を訊きます」
 
 「多くの場合、その郵送費は自腹ですし、相談を受けた病理医も無報酬で対応します。こうした病理医間のネットワークは黙々と、かつたいへん効果的に機能しているのです」

 「病理標本は郵送できる時代ですし、画像をとり込んでインターネット通信することも日常茶飯事です。そんな真面目でシャイな存在である病理医を、ぜひ皆さんも知ってください」

 顕微鏡で覗くプレパラートの向こう側には不安な患者が持っている。顔も知らない患者相手に今日も影武者は目を凝らす。彼らの重要性を描く『フラジャイル』の健闘を祈る!
(文=編集部)


堤寛(つつみ・ゆたか)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏、日本病理医フィルハーモニー(JPP)団長。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。

連載「病理医があかす、知っておきたい“医療のウラ側”」バックナンバー

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