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【シリーズ「再生医療の近未来」第3回】

再生医療が最も進む眼科の疾患――患者たちに光をプレゼントできる日も近い!

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臨床試験が最も進んでいる再生医療は眼科疾患(shutterstock.com)

 再生医療に限らず、どのような医療も長い道のりを歩んで実用化される。基礎研究に始まり、トランスレーショナル(橋渡し)研究や臨床研究を重ね、臨床試験(治験)を経て、何年もの歳月、巨額な資金、多くの研究者や科学者の貴重なノウハウや経験が投入されて、初めて臨床現場で実用化され、治療に役立てられる。

 したがって、多能性幹細胞であるES細胞やiPS細胞の作成や初期化に成功しただけでは十分ではない。それらの作成技術の体系化から、大量に細胞を培養する増殖法や品質管理法の開発、有用細胞へ効率よく分化させる技術の開発、最適な方法で患者の必要な部位に移植する技術まで、多くの段階のプロセスを確実に実現させる実用的な技術体系を組み立てる必要がある。

 しかも、このような治療法や技術体系が構築できたとしても、乗り越えるべき課題はまだある。再生医療が真に実用化するためには、信頼性、有効性、安全性が確認されるとともに、今すぐにでも治療を必要とするすべての患者の手に届くだけのリーズナブルな治療コストを維持しなければならないのだ。

まず目の病気の治療からスタート

 しかし、これらの難題は、少しずつ解決に向かっている。2015年現在、多能性幹細胞であるES細胞やiPS細胞を使った細胞治療の研究や臨床応用が意欲的に取り組まれているのは、網膜変性症、1型糖尿病、パーキンソン病、病脊髄損傷、心筋梗塞、肝硬変の治療だ。なかでも、患者での臨床試験(治験)が最も進んでいるのは、加齢黄斑変性症(かれいおうはんへんせいしょう)や網膜変性症などの眼科疾患の治療になる。

 加齢黄斑変性症は、加齢によって網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、見たい部分が見えにくくなる疾患だ。網膜変性症は、光を感じる網膜に異常がみられる遺伝性の疾患で、暗いところでものが見えにくい夜盲(やもう)、視野が狭くなる視野狭窄、視力低下が主な症状。日本では人口10万人に18.7人の発症率と言われている。

 これらの研究開発をリードしてきたのは、米国のACT/Ocata社や英国のPfizer社などのバイオテク企業だ。2014年、ES細胞を使って網膜色素細胞に分化させ、数十名の患者に細胞移植し、良好な予後を得ていると論文発表されている。日本の理化学研究所は、患者由来のiPS細胞を使って網膜色素細胞に分化させ、細胞移植する臨床研究をすでにスタートしている。

 このような眼科疾患後料が先駆的に進んでいるのはなぜか?

 それは、眼科疾患は、細胞治療の効果を期待できるメカニズムが明確である点だ。つまり、失われた網膜色素細胞を補充するだけで、網膜色素細胞が分泌する成長因子によって網膜の視細胞を回復できるからだ。

 しかも、移植には10万個程度の網膜色素細胞があれば、治療効果があると言われている。また、眼球内の移植は、通常の眼科診療に用いる光学検査機器を使って体外から観察・診断が行えるので、もし移植細胞ががん化しても、レーザー光でがん細胞を消滅できる。さらには、眼球中は免疫隔離の状態のため、患者由来の細胞でなくても免疫拒絶反応が起きにくいことも治療効果を高めることにつながっている。

 これらの臨床治療のエビデンスが蓄積されれば、複雑な眼科疾患の完治に道が拓かれ、多くの患者に光をプレゼントできる日も近いにちがいない。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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