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【シリーズ「再生医療の近未来」第4回】

パーキンソン病の再生医療――ES細胞とiPS細胞によるドーパミン産生細胞を脳に移植

 しかし、近年のES細胞やiPS細胞の研究の成果が、パーキンソン病克服への第一歩を踏み出すチャンスを作った。パーキンソン病の細胞治療は、どのような状況だろうか?

 京都大学iPS細胞研究所の高橋淳教授によれば、ES細胞とiPS細胞からドーパミン産生細胞を作り、パーキンソン病の症状を示したカニクイザルに移植したところ、ほとんど動けない状態から、動き回れる状態まで回復した。ドーパミン産生細胞も定着し、その効果は、約1年間持続した。動物実験の最終段階を迎えている。

 ES細胞とiPS細胞から分化させたドーパミン産生細胞を使って脳に移植するというパーキンソン病の細胞治療。問題点はないのか?

 治療のメカニズムが明確なので効果が大きく期待できるが、治療に必要な細胞数は、前回話した眼球内の細胞移植で使う網膜色素細胞(10万個)より多い100万個に上るのは、課題かもしれない。

 移植の副作用として、細胞を移植時に他の神経伝達物質の細胞が混入して、がん化したり、不随意運動やジスキネジア(異常運動症)を引き起こす恐れがある。だが、カニクイザルを使った実験では、がん化は起きていない。万一起きた場合は、放射線治療や切除で対処できる。

 また、計画されているドーパミン産生細胞の脳への移植は、目の中とは異なり、細胞の変化を直接観察できないため、MRI(核磁気共鳴画像法)などの画像診断装置による検査が必要になる。

 来年早々、臨床研究に着手できれば、患者の募集や移植に使うドーパミン産生細胞を産出する準備段階に入る。さらに、臨床研究が伸展すれば、保険適用をめざして、医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づく臨床試験(治験)を2018年度内にスタートするメドも立つだろう。

 この7月、新たな動きがあった。大日本住友製薬が日立製作所や京都大学iPS細胞研究所と共同でiPS細胞を使ったパーキンソン病の治療法の実用化研究を始めると発表。患者へ移植するドーパミン産生細胞の大量作製技術などの開発に取り組むという。

 今年に入り、ES細胞とiPS細胞の研究にますます弾みがつき、強い追風が吹き始めた。臨床研究の射程内に入ったパーキンソン病の細胞治療に期待したい。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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