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【連載 第1回 病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側」 】

血液や臓器を棄てる!? "医療ゴミ"の処分がもつ倫理的な問題とは?

 特に問題が多いのが、病理学的検索が終了したホルマリン固定された臓器の処理だ。廃掃法で定められた感染性廃棄物は、「特別管理一般廃棄物」と「特別管理産業廃棄物」に分けられる。廃掃法では、血液が特別管理産業廃棄物であるのに対して、臓器は特別管理一般廃棄物に分類されている。

 ホルマリン固定によって「感染性がなくなった」と医師が判断すれば、たとえ臓器を「生ゴミ」として取り扱っても、法解釈上は違法とはいえない。

 そもそも、臓器を取り扱う業者は「一般廃棄物処理」に対する許可を受けている。その他多くの医療廃棄物を取り扱う「産業廃棄物」、あるいは「感染性廃棄物」の処理業者とは別の場合が多い。

 現実的には、業者が臓器をホルマリンごと引き取っていることが少なくない。この場合、臓器の焼却処分がきちんとなされていない可能性がある(臭いのきついホルマリン漬けの臓器は取り扱いにくい)。臓器を斎場で焼却処分している"良心的な"病院も多いが、ゴミである臓器を燃やすためには、ダイオキシン規制をクリアした焼却炉としての届け出が求められる(そのような斎場はほとんどない)。

 分娩で排出される胎盤については、多くの医療施設で凍結保存ののちに専門業者に有料で引き取ってもらっている。だが、この未固定臓器(感染性廃棄物の代表格)の処理の実態は、ほとんど不明である。監視の目はゼロに近い。

紙おむつは家庭から出れば一般ゴミ

 最後に、紙おむつにまつわるゴミ問題をつけ加えたい。

 高齢化社会では、小児用のみならず大人用の紙おむつが大量に使用される。ずっしりと重い使用済みの紙おむつは、医療施設から出る場合は感染性廃棄物として取り扱われることが多い。一方、家庭から出れば一般ゴミである。そもそも、紙おむつは基本的に感染性廃棄物として処理される必要はない。

 女性の生理用品に関しても、入院患者が使用した場合だけが感染性廃棄物でいいのか。健康であっても、肝炎ウイルスやエイズウイルスの保因者は決して少なくない。当然、家庭からも感染の可能性のあるゴミが交じる。

 しかし、廃棄物処理最先進国であるドイツでは、こうした感染危険度の低いゴミは一般ゴミと同等に処理されていて、とても合理的だ。いずれにせよ、こうした排泄物に関しては、その所有権が論じられることはほとんどないのが現状である。

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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