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塩分の摂取基準が厳しくなった理由は? 高血圧対策のプロフェッショナル渡辺尚彦医師に聞く

----洋食より和食のほうがヘルシーで健康的というイメージがあります。
渡辺:少なくとも塩分量は逆です。たとえば、朝食でトースト、目玉焼き、サラダ、ヨーグルト、バター、紅茶という洋風のメニューで塩分を計ってみると約4.2グラムでした。ところが和食はご飯、梅干、漬物、納豆、ヨーグルト、味噌汁(小松菜とレンコン、ネギ、マイタケ)という献立で約14.5グラムに達したんです。

----やはり「おかず」の塩分量が多いということですか?
渡辺:私は1952(昭和27)年に千葉県で生まれました。子供の時、冷蔵庫を持つ家庭など見たことがありません。だから保存のため、野菜などは塩辛い漬物にするのが当たり前でした。それが炊きたてのご飯に合うのは日本人なら誰でも知っているでしょう。和食は醤油や味噌といった素晴らしい醸造文化を背景に持ちますが、やはり医学的には塩分が高すぎるんです。

----誰でも簡単に塩分を減らすという方法はないんでしょうか?
渡辺:味噌の塩分が高いのは事実ですが、同時に血圧を下げる働きもあるんです。つまり、飲むなと言っているのではありません。薄味に慣れてほしいんです。たとえば、先の「外食が美味しい」と思う人は、「ちょうどいい味加減だな」と感じる味噌汁を作ってみてください。他に「減塩初心者」にお薦めなのは、にぎり寿司なら醤油を付けずに、刺身はワサビだけで食べてみることです。最初は正真正銘の「無味」かもしれません。ですが慣れてくると、魚本来の旨みや香り、酢飯やワサビの風味など、繊細で深い味わいを舌が感じ取るようになります。朝食なら塩分が最も少ない献立の1つはグラノーラでしょう。50グラムのグラノーラと200グラムのヨーグルトなら塩分量は約0.4グラムです。これで相当に減塩を「稼ぐ」ことができますから、昼食と夕食が楽になるでしょう。

なぜ高血圧は体に悪いのか?

----そもそも、なぜ高血圧は体に悪いんですか?
渡辺:血圧が高いと、動脈は高い圧力に対応するため血管の壁を厚くします。これが動脈硬化の原因になってしまうんですね。他にポンプ役の心臓も高血圧になると更にパワーを必要とするため筋肉、つまり心筋を増やします。心筋梗塞や心不全の原因となるほか、動脈硬化は脳卒中のリスクも高めます。他にも腎臓には毛細血管が集中しているため、高血圧が腎臓病を引き起こすケースも珍しくありません。実は私の父も晩年は血圧が上で200を超え、人工透析を受けていました。高血圧が死因の1つだったのは間違いありません。他界したのは私が大学4年生の時で、循環器科を目指すきっかけにもなりました。

----高血圧対策は減塩しかないんですか?
渡辺:減塩が最も効果的です。1日30分の運動で血圧を下げるためには20週間が必要ですが、味つけゼロの食事なら1週間で同じ効果が得られるんです。

----40代以下だと「まだまだ遠い話」と思ってしまうかもしれません。
渡辺:40代なら健診で「血圧異常なし」の人も少なくないでしょう。だが、将来は必ず高血圧になります。健康でも加齢と共に血圧は上がります。65歳以上は約6割が高血圧というデータもあります。血圧が高くなってしまうと、医者は「減塩しろ、減塩しろ」と説教し、食事は味気なくなり、血圧を下げる降圧剤だけでなく、高血圧が様々な症状を生み、苦痛になるほど大量の薬を飲まなければならなくなるかもしれません。QOL(生活の質)が悪化してしまうのは間違いないんです。そうならないためには、若いうちから薄味に慣れておくだけでも全く違います。本当に「備えあれば憂いなし」なんです。

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