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【シリーズ医師の本音「ドクターズ・ヴォイス」第4回】

SMAP・中居正広さんへ遺言、俳優・今井雅之さんの最期から「緩和ケア」を考える

 国立がん研究センターは4月28日、2015年に国内でがんと診断される人は98万2100人になるという予想値を発表した。がん登録制度のスタートも追風となり、がんと診断される人は昨年より約10万人も増加している。

 部位別では、大腸がん13万5800人、肺がん13万3500人、胃がん13万3000人、前立腺がん9万8400人、乳がん8万9400人。昨年の予測で3位だった大腸がんは、胃がんや肺がんを押さえて1位となった。また、昨年1位の胃がんが伸びなかったのは、衛生状態が改善され、ピロリ菌の感染率が下がったからという。

 さらに、がんによる死亡者数の予測は37万900人。昨年の推計より約4000人の増加だ。部位別では、肺がん7万7200人、大腸がん5万600人、胃がん4万9400人、膵臓がん3万2800人、肝臓がん2万8900人となっている。

なぜ今井さんは緩和ケアを受けられなかったのか?

 緩和ケアやがん治療に関わる医師の中には、末期の大腸がんだった今井さんの急死に、違和感や疑問を抱く者が少なくない。廣橋猛(ひろは・したけし/永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長)医師も、その一人。日経メディカルに連載中の『廣橋猛の二刀流の緩和ケア医』に「今井雅之さんの訃報報道が生みかねない誤解」という記事を寄稿している(2015年5月9日)。

 廣橋医師が違和感を覚えたのは「進行がんの苦痛」についてだ。今井さんは記者会見で「夜中にこんな痛みと闘うのはつらい、モルヒネで殺してくれ」と発言していた。痩せ細り、衰弱する悪液質の状態であることが一目瞭然。かなり進行して、苦痛が強かったことが想像できた。廣橋医師は「適切な緩和ケアを受けているのか?」と感じたという。

 夜中に眠れないくらいの痛みが生じる状態は、適切な緩和ケアを受けていないことをほのめかす。がんの痛みで眠れないのは、必要な鎮痛薬が使われず、疼痛を緩和していないからではなかったか。適切な鎮痛薬を用いれば、がんの痛みは確実に緩和される。緩和ケアは、がん治療中でも必要。少なくとも夜に眠れないくらいの痛みを、医師らが容認していたとすれば大問題だ。

 廣橋医師が懸念しているのは、マスコミ報道の影響で、がんの痛みが緩和されないのは当然という認識が世間に広まらないかという点だ。モルヒネは命を縮める薬ではなく、苦痛を和らげる薬。適切に使用すれば、確実に苦痛を和らげ、QOL(生活の質)を高める。モルヒネへの誤解が深まらないか? マスコミは、今井さんの発言は誤解であること、モルヒネは苦痛を和らげる効果があることを、明確に説明してほしかったと廣橋医師はいう。たしかに、がん終末期は強い苦痛に耐えるのが当然で、苦しみに耐え抜いたことを称えるような論調は少なくなかったように思う。「適切な緩和ケアを受けたのか?」という報道もなかった。

 東京女子医大がんセンター長の林和彦医師は、日経Goodayのメールマガジンに「がんに名医はいない」を寄せている。林医師は、緩和ケアとは、がんであることを忘れられる時間をつくること。緩和ケアは、痛みを取り除いたり、和らげたりすることだけではない。体調が上向きになれば、 食欲が出て、活力を取り戻し、治療効果も上がると緩和ケアの重要性を語っている。

 がんと闘う人の心身の辛さは深刻だ。他人は推し量ることはできない。盟友・中居さんに「検査しろ」とアドバイスした今井さん。今井さんの死を通して学べることの一つは、「緩和ケアを受ける権利」かもしれない。
(文=編集部)

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