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【連載第11回 遺伝子検査は本当に未来を幸福にするのか?】

遺伝子検査で予防的乳腺切除手術をしたアンジェリーナ・ジョリーの真相

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アンジェリーナ・ジョリーさんの予防的乳腺切除手術は日本でも話題になった

Everett Collection/Shutterstock.com

 2013年11月、FDA(米国食品医薬品局)は、23アンド・ミー(23andMe)が提供する「唾液採取キットおよび個人ゲノムサービス(PGS)」の販売中止命令を出した。

 その半年前の5月、女優のアンジェリーナ・ジョリー氏が遺伝子検査の結果、家族性乳がんを発症するリスクが高いことが分かったため、予防的乳腺切除手術を受けたことが報道された。

 ジョリー氏は、2007年1月に卵巣がんと乳がんを併発した56歳の母親(フランス人女優のマルシェリーニ・ベルトランさん)を亡くし、叔母も乳がんで他界している。母親も叔母も、がん抑制遺伝子のBRCA1とBRCA2のどちらか、もしくは両方に病的な変異がある遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC/Hereditary Breast and Ovarian Cancer))だった。

 医師の診断によると、ジョリー氏はがん抑制遺伝子BRCA1に変異があり、乳がんリスクが87%、卵巣がんリスクが50%あると診断された。治療は2月にスタート、5月に両乳房切除後の治療もすべて順調に完了し、ジョリー氏の乳がんの発生リスクは5%に低減しているという。

 HBOCの女性は、若い年代で乳がんになり、対側乳がんや同側乳がんを多発したり、卵巣がんを発症するリスクが高いため、一般的な乳がんや卵巣がんとは異なる医学的管理や治療が推奨されている。検査でHBOCと診断されると、治療や検診の選択肢ができ、HBOCと診断された人の血縁者も、発症の可能性を調べられる。正しい診断による個別化医療が、早期発見・治療・予防につながっている。

「あなたたちは乳がんで母親を失うことはないから安心するように」

「母を亡くした時のあの悲しみを、愛するわが子には経験させたくないという思いが頭をよぎった。現実を知って、すぐにできる限り、がんリスクを最小化するために行動しようと決めた」と話すジョリー氏。最初に乳腺切除手術を受けた理由については、乳がんリスクの方が高く、卵巣がんの予防手術がより複雑なものだったためと答えている。

 ジョリー氏は、夫のブラッド・ピット氏とともに映画界をリードする女優。2人の間には、実子3人と養子3人がいる。子供たちに対してジョリー氏は、「あなたたちは乳がんで母親を失うことはないから安心するようにと言える。今は乳がん予防のオプションも可能だということをすべての女性が知ってほしい。乳がんと卵巣がんは、特に家族歴が重視されるので、思い当たる人は専門医に相談してほしい」とコメントしている。

 ジョリー氏の手術公表は、日本でも大きな話題を呼んだ。従来は一部の先進的な病院でだけが行っていた、発がんリスク低減の乳腺切除や卵巣卵管の予防的切除手術を実施する病院が増えている。日本の遺伝子検査と予防医療の認知が深まったなら朗報だ。

 しかし、ジョリー氏の家族性乳がんは、遺伝性が明確な疾患である点に注意しなければならない。つまり、HBOCの検査とDTC(消費者向け)遺伝子検査とは根本的に違う。

 遺伝子を構成するアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトニン(C)の4つの塩基の一部分が入れ替わったり、欠落したりしていると、がんを抑制するたんぱく質が作れなくなり、がん抑制機能が働かず、遺伝子変異が、がんにつながる。その結果、女性の乳がんと卵巣がんが発症する可能性が高まる。

 これまで再三再四、書いたように、DTC遺伝子検査は治療方針に影響を与えない検査で、決して確定的な診断ではない。このことは強調してしすぎることはない。

 次回は、DTC遺伝子検査サービスを利用する時に、知っておくべきチェックリストを確認しよう。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。
連載「遺伝子検査は本当に未来を幸福にするのか?」バックナンバー

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