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医療法人のグローバル化を阻む"壁"が、日本の医療を衰退させる

医療法人の海外進出を阻む"壁"が日本の医療の将来を揺るがす

 ここまで伺って気になるのは、なぜ日本の医療法人は一般企業と比較して海外に進出することに高いハードルがあるのかという素朴な疑問だ。この疑問に対して、相川氏は「日本で認可を受けた医療法人は、日本国内で活動することしか認められていない。日本の医療法人が海外に医療事業を展開しても、日本ではそれが医療活動として認められず、医療機器など莫大な設備投資が必要となってもそれが経費として求められないのだ」と語る。つまり、日本の医療法人が海外で医療を提供しようとした場合は、相手国で独立した医療法人を作るか、開院にあたって必要な医療機器の膨大なコストなどを全て日本の医療活動で得た利益の中から"自腹"で賄わなければならない。ここに、日本の多くの医療法人が海外に進出することができない難しさがあるのだ。

 一方、海外の医療法人では優秀な医師がいても、優れた医療技術があっても、それを日本で展開するには日本で医療法人としての認可を受ける必要があり、そのハードルは非常に高い。日本が海外に高度な医療を求めても、海外が日本の優れた医療技術を求めても、そこには目に見えない大きな壁が立ちはだかるのである。海外の優れた医療技術に対する期待は、相川氏もベトナムに開院したクリニックで感じているそうで、「ベトナムのクリニックには現地採用の医師もいるが、あえて『日本人の医師にお願いしたい』という患者の声は多い。ベトナムでは今、いい加減な医療を提供する医院が多いことが社会問題になっており、日本の"安全な医療"に対する信頼や期待は想像以上に大きい」と手ごたえを語っている。しかし、日本の医療法人がそうした海外からのニーズに応えるのは、非常に難しいのが現状なのである。

 加えて、相川氏は「医療法人の海外進出を阻む壁は、優秀な人材の海外流出をも招く」とも語る。国際医療ボランティアや国際共同研究など特別な場合を除いては、医師が持つ医師免許は免許を交付した国だけでの活動が認められている。その点では、医師にも医療法人と同じ国境の壁が存在する。しかし、医師が海外で医療に携わろうと思ったら、自ら海外の大学や病院で学び、現地の医師免許を取得すればよいわけであり、そのハードルの高さは医療法人のそれとは大きく異なる。高度な医療技術、日本では認可されていない先進医療に携わりたいという若く優秀な医師は、自分の意志で海外に飛び出していけばよい。しかし、そうした優秀な医師の海外流出は、日本の医療の質の低下にもつながりかねないのだ。

 また、人口減少が顕著になっていく将来、日本の医療法人が安定的に事業を継続していくためには、日本だけを事業基盤にしていくことには無理があるとも言える。相川氏はこの点についても、「日本の人口はこれから減り続ける。日本の医療法人が海外に進出する社会構造を作り、国策として医療技術の輸出・輸入ができる環境を作らなければ、近い将来、日本の医療法人の事業継続性が危ぶまれるのではないか」と指摘する。
(文=編集部)

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