子どもの頃にワクチン接種した?
2014年12月、アメリカの元女優で映画監督のアンジェリーナ・ジョリーが水痘(水ぼうそう)にかかったため、自らの監督作品である『アンブロークン』のプレミアを欠席した。一方、同じく12月に米アイスホッケーリーグ(NHL)で流行性耳下腺炎(おたふく風邪)が流行。5チームに所属する14選手と、審判2人が欠場する事態になった。
多くの人は、幼少の頃にこうした小児感染症の予防接種を受けているはずだ。ではなぜ最近、こうした感染症にかかる大人が目立つのだろうか。
原因は主に2つあるという。米国感染症学会(IDSA)のAaron Glatt氏によると、アメリカの一部地域では、小児の予防接種率が低下しているため、子どもに限らずあらゆる人が、水痘や麻しん(はしか)、流行性耳下腺炎、百日咳などの病原菌にさらされるリスクが高まっているというのだ。
もうひとつの原因は、予防接種を受けても、大人になると時間の経過とともに防護効果は弱まってくることだ。当然そういう状態で患者に接触すれば、感染してしまうリスクが高い。
1年ではしかの患者が急増
「アメリカの公衆衛生における感染症防御は、"集団免疫"のうえに成り立っています」とGlatt氏は説明する。十分な数の子どもがワクチン接種を受けていれば感染の拡大を防ぐことができ、ひいては接種を受けられない人や、免疫がなくなっている人も感染から守ることができる。
実際、アメリカは日本より多数のワクチンが定期接種に指定されており、防御体制は徹底している。日本では今も毎年数10万~100万人以上が羅患しているといわれる麻疹や流行性耳下腺炎も、アメリカでは数年前まで年間100人ほど。ほぼ絶滅状態といえるところまで抑えこんできた。
しかし近年、アメリカでもワクチンの有効性や安全性に懐疑的な「反ワクチン」派が急増しているらしい。AP通信と調査会社GFKが共同で行った世論調査によると、「ワクチンは安全で効果的だと信じている」と答えた人は全米で51%しかなかった。
そして先日、米国疾病管理予防センター(CDC)が公表したデータによると、2014年の麻疹の症例は全米27州で644人。規模自体は小さいものの、2001~2013年がおよそ100~200人で推移していたのと比べればたった1年で激増し、この四半世紀で最も多い患者数になってしまった。CDCによれば、麻疹だけでなく、百日咳や流行性耳下腺炎も年々増加傾向にあるという。
このニュースを掲載した『ワシントンポスト』は、「反ワクチン運動の驚くべき影響」「文字通り、公衆衛生の進歩の時計を数十年逆戻りさせた」と厳しく断じている。図らずもワクチンの有効性を証明することになった出来事だが、アメリカよりも感染症に対する防御が甘いといわれる日本にとっては、決して対岸の火事ではない。
成人がこのような感染症にかかった場合、小児よりも重い合併症を発症する確率が高く、死亡率も高い。「一度もかかったことがないかもしれない」と不安のある人は、医師に相談して免疫の有無を調べてもらい、対策すべきだろう。
(文=編集部)