求められる手術中の鮮明な画像shutterstock.com
高齢化が進んでいるのは何も日本だけではない。先進各国ではほぼ同様の道をたどり、一方の新興国では人口が増加し続ける。いずれにしても医療の需要はますます拡大し、今や医療機器の世界市場は約8%の成長率を維持している。ちなみにその市場規模は約20兆円(2007年)から約45兆円(2017年)へと伸びると予測されている。このうち国内の医療機器市場は約2兆円。全世界の10%の医療機器を日本が消費していることになる。ちなみにアメリカが世界の医療機器の40%を消費している。
医療機器は大きく治療機器と診断機器の二つに分けられるが、日本での輸出入状況を見ると、治療機器は輸入に大きく依存している。逆に日本が比較的、国際競争力を持ち国際市場に食い込んでいるものとして、X線CT装置や超音波診断装置、MRIといった「画像診断システム」の分野がある。この分野では世界市場の約15%を占めるとされる。特に、X線CT装置や超音波診断装置は、輸出高が輸入高を上回っている。
もうひとつ、日本のほぼ1人勝ちといわれてきたのが内視鏡だ。内視鏡には硬性内視鏡と軟性内視鏡があるが、柔らかな素材を使い、体内で柔軟な動きが可能であるため、消化器や呼吸器などの検査や治療に使われるのが軟性内視鏡。この世界市場は、ほぼ日本の3ブランド(オリンパス、富士フィルム、ペンタックス)で独占されている。一方、硬性内視鏡はまっすぐな筒にレンズをつけた構造で、膀胱鏡、胸腔鏡、腹腔鏡などとして使われる。この分野でも日本のシェアは高いもののまだ30%前後にとどまっている。
ところがここへきて患者への負担が大きい開腹手術から侵襲性の低い鏡視下の手術が急増している中、外科用内視鏡(硬性内視鏡)の需要が急激に伸びてきているのだ。2014年の販売台数は2011年実績のほぼ2倍となっている。日本のお家芸ともいえる内視鏡技術は、硬性内視鏡でもその強みを発揮できるの可能性はあるのだろうか?
次世代内視鏡の革新は多彩な映像技術がカギ
硬性内視鏡の技術革新のコア部分には多彩なイメージング技術(映像技術)がある。体内の臓器や血管、神経、腫瘍部位などを鮮明に描き出す高精細な画像や術野を立体的に把握してよりミスのない手術を可能にする3D画像などが開発がそれだ。
現在、ソニーとオリンパスが共同出資する合弁会社「ソニー・オリンパスメディカルソリューションズ」が進める4K以上の高精細画像や3D画像に対応した外科用内視鏡。信州大学、国立成育医療研究センター、福島県立医科大などが医師主導治験として進める小型軽量・低照度・低温度で超高感度画像の表示可能な次世代型内視鏡。パイオニアが進める月明かり程度の環境でも、デジタル補正処理をすることなく、鮮明な画像が得られる超高感度内視鏡など各メーカーが独自のイメージングシステムで次世代の内視鏡開発に取り組んでいる。
さらにNHKが開発した8K(スーパーハイビジョン)技術と内視鏡を合体させた8K内視鏡が世界的に注目を集めている。8Kの放送規格はすでに2012年に国際規格(ITU-R勧告BT.2020)として承認され、まさに日本オリジナルの画像技術だ。
政府は、健康・医療戦略、医療分野研究開発推進計画などを踏まえ、医工連携により医療現場のニーズに応える開発・実用化を推進する「医療機器開発支援ネットワーク」の構築を打ち出し、産学官が連携して世界最先端の医療機器開発を推進するための「次世代医療機器開発推進協議会」を昨年10月に開催、この1月30日には「第1回全国医療機器開発会議」を予定している。
こうした動きの遅さを指摘する声もあるが、日本が武器輸出国となり、他国の多くの人々の命を奪う行為に加担するよりどれほど有意義であろうことか。日本の技術力を生かすのであれば、本気で医療機器供給国となるよう国を挙げて取り組むべき方向ではあるまいか。
(文=編集部)