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【連載第3回 恐ろしい危険ドラッグ中毒】

実録危険ドラッグ。日本を旅行中のアメリカ人男性が救急車で運ばれてきた

 米国籍をもつ20代男性は、日本を旅行中に繁華街で粉末の危険ドラッグ(Brain Fall)を購入した。1日2~3回、1週間連続して吸入し続けたところ、次第に落ち着きがなくなり、呼吸苦、動悸、食欲低下を認めた。更に歩行できなくなったため、自分で救急車を要請した。

 搬送時意識清明で全身の筋肉痛を訴え、特に両下肢のしびれ感、倦怠感を訴えた。採血したところ体内でのエネルギー代謝に関わっている酵素CPKの数値が 6200 IU/L(正常値50~200)、心筋梗塞やその他の筋疾患を疑う場合に目安となるミオグロビン4900 ng/mL(同200以下)と上昇していた。また尿量が少なく、腎臓の働きも低下していた。「横紋筋融解症」と診断して、大量に点滴を開始した。

 彼に問診したところ、米国では心療内科や精神科受診歴はなく、危険ドラッグを吸入したこともなかったが、日本に来て興味を抱き、ハーブ店で危険ドラッグを購入した。多幸感が得られたため、1週間継続使用したところ、次第に活力が低下し、歩行も困難となったため、あわてて病院に行く決心をしたとのことであった。

急性腎不全など命にかかわるケースも

 5日間点滴治療を行ったところ、CPK、ミオグロビンは次第に低下して正常値に戻り、腎臓の働きも正常化した。「自分自身としては危険ドラッグの恐ろしさを知り、危険ドラッグを吸入したことを後悔している。」と述べた。在院6日にて退院することができた。 
 
 わが国では危険ドラッグを容易に入手できるため、旅行中および長期滞在中の外国人の利用者が増加している。このケースでは、彼自身が理知的であり、自分自身で危険ドラッグの吸入を中止できたため、症状も回復し、犯罪、事故を起こすこともなかったのは幸いであった。 
 
 危険ドラッグの連用は横紋筋融解症、腎臓の働きの低下などの重篤な症状を呈することがある。時には大量の向精神薬を服用した際にしばしば認められるような急性腎不全に進展し、血液透析などの治療が必要となる場合もある。更に人格障害などの異常を認めることもある。 
 
 危険ドラッグに対して興味を示さず、購入せず、使用しないことが最も大切である。一度使用したら身体的に重篤な症状を呈し、更に連用するとより危険な状態に陥り、精神的にも荒廃しかねないことを十分に認識すべきである。 

注)横紋筋融解症:筋肉の細胞融解や壊死が起こり、CPK、ミオグロビンなどの筋肉成分が血液中に流失してしまう病気で、特にミオグロビンが腎臓に取り込まれて、尿が出にくくなり、急性腎不全に進展することもある。手足のしびれや痛み、手足に力が入らない、全身がだるい、歩行できない、尿の色が赤褐色になるなどの症状が出現する。本症の原因は地震などにて建物に長時間閉じ込められ、圧迫された際に起こる挫滅症候群や大量の抗うつ薬、催眠薬、消炎鎮痛薬を服用したり、高脂血症薬を連用したりすると発症することがある。治療は大量点滴を行い、腎臓の働きが低下した症例では血液透析が有効である。

連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー 

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原記念札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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