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修復腎移植~あまりにも長すぎた先進医療の審査。バトンは次の世代に

修復臓器からのがん持込はないという世界の研究

 当初、移植学会などは「修復したとしても、移植された患者にがんを持ち込むので、ありえない医療だ」などと非難していた。7月7日に放映されたNHK Eテレの番組でも、『日本の臓器移植:現役腎移植医のジハード』(河出書房新社)著して「病腎移植(修復腎移植)」に真っ向から反対論を唱えた、東京の元私立医大教授が「ドナーのがんが持ち込まれる」という自説を展開していた。

 「ドナーがん」の持ち込み説は、米シンシナチ大学移植外科のイスラエル・ペンなどが1971年に唱えた説で、90年代後半には自ら自説の誤りを認めたので、世界的にはもうまったく否定されている。特に決定的だったのは2005年にスペインから発表されたレシピエントに生じた腎がんの遺伝子解析結果で、小径腎がんの修復腎移植後、7年目に生じた同部位の腎がんはドナー由来でなく、レシピエント骨髄幹細胞由来であると証明された。
 
 これは骨髄の幹細胞の動態を知っている血液病理学者には常識である。日本の腎移植関係者がなぜこの最先端の知識を学ぼうとしないのか、不思議でならない。かつてフランスの偉大な科学者パストゥールは「科学に国境はないが、科学者には国境がある」と述べたが、この国際化の時代に患者にとって国境があるとは思えない。医師の国際化が必要だ。

 私は当時、各種メディア報道を詳しく検討し、腎がんと移植医療についてもスタンダードな英語の専門書を読み、同年11月26日に地元紙中国新聞に「病腎移植を支持する」という論説を発表した。私の論点は「がんは遺伝子病であり、ドナーのがんはレシピエントには移らない」というもので、それはがん研究が格段に進歩した2018年になっても変わらない。

 その後、私はいわゆる「病腎移植」は万波誠医師の前任病院・宇和島市立病院、呉共済病院などで合計42例行われていると公表し、全例の予後調査行い、結果が優れていることを全国的な医学週刊誌「医学のあゆみ」に投稿した。

 先進医療として審議される過程で、関係学会などが「42例の臨床研究」を主張しているが、数字の根拠はここにある。そこで、最初期からの支持者として、今回の「大団円」について、いささかのコメントを述べることをお許し頂きたい。

難波紘二(なんば・こうじ)

広島大学名誉教授。1941年、広島市生まれ。広島大学医学部大学院博士課程修了。呉共済病院で臨床病理科初代科長として勤務。NIH国際奨学生に選ばれ、米国NIHCancerCenterの病理部に2年間留学し血液病理学を研鑽。広島大学総合科学部教授となり、倫理学、生命倫理学へも研究の幅を広げ、現在、広島大学名誉教授。自宅に「鹿鳴荘病理研究所」を設立。2006年に起こった病気腎移植問題では、容認派として発言し注目される。著書に『歴史のなかの性―性倫理の歴史(改訂版)』(渓水社、1994)、『生と死のおきて 生命倫理の基本問題を考える』(渓水社、2001)、『覚悟としての死生学』(文春新書、2004)、『誰がアレクサンドロスを殺したのか?』(岩波書店、2007)などがある。広島大学総合科学部101冊の本プロジェクト編『大学新入生に薦める101冊の本』(岩波書店、2005)では、編集代表を務めた。

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