「バファリンA」を112錠も飲んで自殺企図
症例2:10歳代無職男性。精神科や心療内科の受診歴なし。某日16時頃にウイスキーをストレートで180mL飲み、「バファリンA」を112錠(アスピリン36.9g、738.0mg/kg相当)も飲んで自殺企図した。
しばらく様子を見ていたが、嘔気、倦怠感、呼吸苦、発汗、耳鳴、動悸などが改善しなかったため、自分で救急車を要請し、服用後4時間10分に搬送された。
意識清明、体温39.2℃、脈拍は108/分、頻呼吸を呈し、pHは7.068と著明に酸性化しており、尿量も減少し、腎不全に進展していた。症例1と同様に横紋筋融解症も呈していた。
ただちに血液透析を1日3時間、2日間行い、2回目の血液透析後にはpH7.394と回復。腎不全や横紋筋融解症の所見も改善された。血中濃度は、搬送時124.3mg/dLであったが、2回目の透析後には12.9mg/dLと著明に減少した。搬送時の諸症状も消失し、第5病日に退院となった。
急性アスピリン中毒には迅速な対応を
急性アスピリン中毒では、服用量が150mg/kg以下であれば無症状であることが多いが、150~300 mg/kgであれば嘔気、頭痛、頻呼吸、頻脈などの症状が出現。さらに、300~500 mg/kgでは、傾眠、昏睡、痙攣発作、低血圧、呼吸停止などを呈し重篤。500mg/kg以上の服用例では致死的になる。また血中濃度が100mg/dLでは、重篤化しやすい。
症例1と2の如く、致死量の服用例では、服用後1時間以内であれば、胃洗浄を行い、アスピリン血中濃度を即刻把握する。しかし、このような処置が不可能な医療施設が多い。
そのため、pH測定により著しい酸性化や腎不全、横紋筋融解症の所見を認めた際には、アスピリンの迅速な排泄を促すために、血液透析を躊躇なく施行するのが良い。これらの所見は、劇的に改善することが多い。そして残念ながら現在のところは、解毒薬は存在しない。
精神科や心療内科で処方される向精神薬や催眠薬とは異なり、いつでも誰でも簡単に入でき、大量服用が可能な市販薬を用いた急性中毒症は、現在でも増加している。向精神薬などでの意識障害が主症状であることが多い中毒症とは異なり、重篤な呼吸循環や腎機能障害が出現しやすいので、十分留意することが必要である。
(文=横山隆)