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【連載「死の真実が〈生〉を処方する」第44回】

シートベルトとの接触で痛み、腸と皮膚の境界から出血…気づかれにくい「人工肛門」の苦労

やはり辛い「人工肛門」の日々

 大腸がんなどで大腸を切除した患者さんには、ストーマ(人工肛門)を付けている人がたくさんいます。このケアには特殊な袋などの装具が必要ですが、身体障害者手帳があれば装具の購入も自己負担額は原則1割です。

 通常は、肛門に代わる穴を下腹部に空け、そこに袋を付けます。そして、その袋に排泄物が出されます。人工肛門として体に袋を付けるため、接着剤のようなものを塗ります。そのため、その接着剤で皮膚がかぶれてしまう人もいます。また、腸の端が皮膚のすぐ下に逢着されるので、この境界から出血することもあります。

 排泄物がたくさん出れば袋がいっぱいになり、すぐに処理をする必要があります。袋を外す際には、こぼれないように、そして臭いなどに気を遣わなければなりません。

 たとえば新幹線に乗車する場合、処理ができる最新のトイレ(オストメイト対応トイレ)を完備した車両がないと困ってしまう。ほかにも、日頃の服装や入浴、睡眠など、多くのことに気を遣います。

 また、自動車の運転では、人工肛門を付けているとシートベルトが接触します。すると、痛みが出るそうです。シートベルトの位置を少しずらしたり、長時間の運転を避けるなどの工夫が必要なのです。

 近年はさまざまなバリアフリー対策が行なわれており、車椅子利用者のためのスロープ、視覚障害者のための点字ブロックなどは目にすることが増えました。

 とはいえ、さまざまな内部障害のある人への対応は、まだまだ発展途上のようです。真のバリアフリー社会の到来には、さらなる取り組みが必要でしょう。

連載「死の真実が"生"を処方する」バックナンバー

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)

滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。社会医学系指導医・専門医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

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