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【シリーズ「傑物たちの生と死の真実」第26回】

ミッフィーの生みの親ディック・ブルーナ89歳の天寿 「老衰」とは何か?

老衰は日本の死亡者数のうちの4.8%(死亡原因の第5位)

 「寿命が来た」「寿命が尽きた」などと人は言う。古今東西、歴史を紐解けば、ダヴィンチ、ミケランジェロなど、長命長寿で人生を謳歌した芸術家が少なくない。ブルーナもその隊列に加わった。死亡診断書に記された死因の「老衰」とは何だろう?

 年を重ねれば、誰もが老化する。老化に伴って細胞や組織のホメオスタシス(生体恒常性)が減衰し、多臓器不全に陥るため、生命活動の維持が困難になる、それが老衰の原因だ。

 老衰死と判断された場合は、死亡診断書に「老衰」と記載する。心不全、心筋梗塞、脳卒中、肺炎などによる死亡と診断された場合は、死亡診断書に疾患名を直接的死亡原因として記載する。

 世界保健機関(WHO)も厚生労働省も、老衰を死亡原因として認定・分類している。老衰は、2012年の日本の死亡者数のうちの4.8%(死亡原因の第5位)。90歳代前半の死亡者数のうちの11.0%(同第5位)、90歳代後半の死亡者数のうちの18.7%(同第2位)、100歳以上の死亡者数のうちの31.6%(同第1位)を、それぞれ占めている(厚生労働省平成26年 我が国の人口動態 平成24年までの動向 性・年齢階級別にみた死因順位)。

老衰の比率が高い市区町村ほど医療費が低い

 日本経済新聞社の調査によれば、市区町村別の後期高齢者(75歳以上)1人当たりの年間医療費と厚労省の老衰死比率データ(2008~2012年)を分析した。

 その結果、死因に占める老衰の比率が高い市区町村ほど医療費が低く、老衰で死亡するまでの介護費が増える傾向も少ないと公表した(「老衰多いと医療費低く 男性最多は茅ケ崎市 全国平均を14万円下回る 日経調査」『日本経済新聞』朝刊2017年12月25日)。つまるところ、「ピンピン、コロリ」が国策の大理想となる。

死期が近づくとホメオスタシスが減衰し、体重や食事量の減少が避けられない

 老衰死のエポックは多い。たとえば、NHKスペシャル『老衰死 穏やかな最期を迎えるには』(2015年9月20日放送)を見よう。報道によれば、平均年齢90歳の高齢者約100人が生活する東京・世田谷の特別養護老人ホーム「芦花(ろか)ホーム」の石飛幸三医師は、同番組で次のように指摘する。

 「老衰死とは直接の死因となる病を持たず、老いによる身体機能の低下で死を迎えることです。共通する特徴は『食べる』という機能が低下することで、それが身体全体の機能を低下させていく。平均寿命(男性80.5歳、女性86.8歳)あたりが老衰死を迎える年齢の目安になります」
 
 また、2013年に東京有明医療大学の研究者が介護保険施設で亡くなった約100人の高齢者のデータ(1日に摂取したカロリー量とBMI(体重を身長の2乗で割った値)の変化)を収集・分析した。その結果、毎日一定量のカロリーを摂取している高齢者でも、死を迎える5~6年前から体重が減り続けていた。

 老衰のメカニズムを研究するジョンズ・ホプキンス大学のニール・フェダーコ教授によると、体重減少の機序は、こうだ――。年齢を重ねるにつれて体内の細胞数が減少→栄養素を吸収する小腸の組織や筋肉などが萎縮→小腸の襞状が萎縮→摂取した食事の栄養を体内に取り込めない→体重が減少する。

 また、老化した細胞から「炎症性サイトカイン」と呼ぶ免疫物質が大量に発生すると、周辺の細胞の老化が促され、体内の臓器や細胞が慢性的な炎症状態に陥るので、細胞の機能低下が起こる。その帰結として、筋肉が炎症するに伴い、運動機能が衰え、肺を動かす筋肉の炎症が呼吸機能の低下を招くことから、生命活動の維持がますます困難になる。

 このような老化と老衰のメカニズに基づけば、ブルーナの高齢を考えると、ブルーナも死期が近づくにつれて、体重の激減や食事量の減少が避けられなかったのかもしれない。

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