夜の世界で働く「障がい者」の実態
また、本書の後半は、これも従来見過ごされがちだった、「知的障がいや発達障がいのある女性」と「風俗」の世界との関わりについてページが割かれている。
知的障がいの女性が風俗の世界で売春婦として働くケースがあることは、「日本の知的障がい者教育・福祉の父」と呼ばれる社会事業家の石井亮一(1867〜1937)も、戦前から既に指摘している根の深い問題だ。
本書には、障がい者を専門にAVや風俗に斡旋するスカウトマンがいることまで紹介される。
しかし、「自分のしていることは福祉だ」と主張するそういったスカウトマン自身が、発達障がいや精神障がいを抱えていることもある。障がいのある男女が夜の世界に流れる背景には、社会の中に彼らの出番や居場所がなかったことがあると、著者は指摘するのである。
社会福祉の観点からこういった現実を批判するのはたやすいが、著者は「夜の世界には『搾取』や『女性差別』という一面的な視点だけでは語りつくせない多面体の現実がある」と指摘する。
そして、むしろ夜の世界から学ばねばならないのは「支援者」のほうであり、夜の世界は障がい者福祉に足りないものを映し出す「鏡」になっていると著者は述べるのである。
本書は全編を通して、「性とはすなわち生きること」であり、たとえそこにリスクがあろうと「性に関する本人の自主性は尊重されるべきだ」という勇気を伴う優しさに貫かれている。
健常者であっても、本書を読むことで「自分にとって性とはなんだろうか?」と自らに問いかけずにはいられない。そんな深みを持った「性と生のガイドブック」になっているのである。
(文=里中高志)