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【特集「「時計遺伝子」って何?」第2回 】

抗がん剤は夜中の投与が効率的?薬の効き目は飲む時間で変わる!

さまざまな病気への応用が始まっている

 がんだけでなく、さまざまな病気に対して、時間治療によって薬の効果を高めたり、副作用を減らしたりすることが期待されている。これまでにも、脂質異常症、メタボリック症候群、骨粗鬆症、関節リウマチなど、時間治療の有効性が報告されている病気は多くある。

 「たとえば、血圧を下げる薬(降圧剤)は通常、朝に服用することが多いものです。朝の服用は薬の吸収効果が高くなるからです。けれど、夜に飲んだほうが効果が大きい薬もあります」

 「ACE阻害薬のテモカプリルは、夕食後に服用したほうが降圧効果が大きく、効果の持続時間も長くなり、心臓肥大を予防する効果も大きいと報告されています」(大塚医師)

 血圧は日中にかけて上昇し、夜間に下降していくというリズムがある。ところが、このリズムに狂いが生じ、早朝に急激な血圧上昇が起こったり、夜間にあまり血圧が下がらなかったりするために、朝の血圧が高くなる人がいる。こうしたタイプの高血圧の人は、脳卒中や心筋梗塞を起こす危険が高いことがわかっている。

 「通常の薬の服用のしかたでは朝の血圧上昇が抑えられない患者さんには、前日の夕食後に薬を服用してもらったり、作用時間が異なる薬を組み合わせたりする治療が有効です」

 「現在の診断基準では一律に、血圧が140/90mmHgを超えたら高血圧だとしていますが、本当なら、血圧をいつ測ったのか、その後どのように変化するのか、といった時間医学的な視点を取り入れて診断や治療を行うべきではないでしょうか」(大塚医師)

 時間治療については、現状ではまだよく知らない医師も多いという。今後さらなる研究の進展や治療への応用が期待されるところだ。
(取材・文=山本太郎/ライター)

大塚邦明(おおつか・くにあき)
東京女子医大名誉教授。九州大学医学部卒業。九州大学温泉治療学研究所、高知医科大学老年病学教室勤務を経て、東京女子医科大学東医療センター総合内科教授、同大学東医療センター病院長を歴任。同大学名誉教授。2015年より戸塚ロイヤルクリニック院長に就任。専門は循環器内科学、高齢者内科学、睡眠医学、時間医学。日本自律神経学会会長、日本時間生物学会会長、日本循環器心身医学会会長、世界時間生物学会会長などの要職を歴任。『時間医学とこころの時計』(清流出版)、『眠りと体内時計を科学する』(春秋社)など著書多数。

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