通勤通学で難聴に?(depositphotos.com)
都市部での暮らしは日々喧噪に囲まれている。街にはいつも大音量の音楽が鳴り響き、通勤ラッシュの駅では数十秒毎に電車が発着する中で、駅員の過剰ともいえる案内がスピーカーからひっきりなしに降り注いでくる。
もし静かな地方に住む人が突然この場所に放り込まれたら、思わず顔をゆがめて耳を塞ぎたくなることだろう。一方で毎日同じ時間に同じ駅を利用して通勤通学している人たちは、淡々として、どんな音にも慣れっこに見える。
しかし、仮にそれが慣れではなく「耳が聞こえにくくなっている」からだとしたら、少し怖くならないだろうか。というのも海外で実施された調査から、通勤通学で公共交通機関や自転車を利用する人は、騒音のために難聴になる可能性があることが示唆されたからだ。
110dB超の「ものすごくうるさい」もしばしば
調査を行ったのはカナダ・トロント大学などの研究グループ。結果は『Journal of Otolaryngology -- Head & Neck Surgery』(11月23日オンライン版)で報告された。
今回の騒音調査は2016年4〜8月にかけて、トロント市街地で平日午前7時〜午後7時の間に実施された。研究グループは装着型の騒音計を用い、地下鉄や路面電車、バスの車内およびプラットホームのほか、自動車や自転車利用時の騒音レベルを測定。測定回数は合わせて210回だった。
その結果から、交通機関別に車内とプラットホームでの平均騒音レベルを導き出した。すると、「路面電車の71.5dB(デシベル)」に対して、「地下鉄が79.8dB」、「バスが78.1dB」と、より高いことがわかった。
また、「自動車の車内が平均76.8dB」なのに対して、「地下鉄のプラットホームが平均80.9dB」となり、より騒音レベルが高いことも明らかになった。
さらに、測定ごとの最も大きな騒音を「ピーク騒音」とした場合、地下鉄で測定されたピーク騒音の19.9%が114dBを、路面電車で測定されたピーク騒音の20%が120dBを超えていた。バスのプラットホームではピーク騒音の85%が114dBを超え、54%が120 dBを超えていた。
このほか、自転車利用者がさらされているピーク騒音はすべて117dBを超え、このうち85%が120dB超の騒音だった。
「健康リスクがある」と耳鼻科医が警鐘
米国環境保護庁(EPA)では、難聴リスクをもたらす騒音レベルの基準を114dBで4秒以上、117dBで2秒以上、120dBで1秒以上としている。
今回の研究を実施したトロント大学耳鼻咽喉科頭頸部外科のVincent Lin氏らは「この研究は騒音にさらされると難聴になるという因果関係を明らかにするものではないが、トロントの交通機関で測定された『ピーク騒音』はEPAの基準値を超えていた」と指摘する。
騒音の許容度は「音の大きさ×音にさらされた時間」で決まる。ごく短時間であっても、著しく大きな騒音にさらされると、それより小さな騒音に長期的にさらされる場合と同じレベルの有害な影響があることがわかっている。
さらに慢性的に大きな騒音にさらされることは、抑うつや不安、慢性疾患などのリスクを上昇させるなど、全身に影響することも明らかになりつつある。こうしたことからLin氏は「今後、公共スペースや公共交通機関を設計する際には、騒音による健康リスクについても考慮すべきだ」と対策の必要性を強調している。