女性医師が増えても、病院の受け入れ体制・環境が未整備
しかし、さらに難題が横たわる。女性医師の増加と、受け入れる病院の対応の遅れだ。
訴訟や激務の高リスクは、若い医師が産婦人科を敬遠する最大の理由だ。だが、分娩施設の産婦人科常勤医師に占める女性医師の割合は、2008年の30.6%から2014年の38.7%に高まっている。また、女性医師のうち妊娠・育児中の医師の割合も32.8%から52.3%に増加。
一方、分娩施設での勤務医への妊娠・育児支援の状況を見ると、妊娠中に当直を軽減される女性医師は46.4%。育児中に当直を緩和・免除される女性医師は64.9%に上っている。ただし、病児保育は23.7%、24時間保育は22.9%に留まっているため、子どもの体調が悪くなれば休まざるを得なくなる、当直や時間外勤務が不可能になるなど、育児中の制約が大きい。つまり「妊娠・育児中の女性医師」は増えているものの、「勤務に柔軟に対応できる医師」はあまり増えていない。
また、妊娠・育児中のために当直免除など勤務の軽減を受ける医師と軽減されない医師の間に、勤務時間や収入への不公平感も生じている。さらに、妊娠・育児中の勤務状況が制限される女性医師を病院が忌避する傾向もあることから、採用後に休職や休業などの勤務リスクの高い女性よりも男性が優先採用されるケースも少なくない。
このように、産婦人科の女性医師が増加しても、病院の受け入れ体制や環境・制度の整備は大きく立ち遅れている。
世界トップクラスの安全性を堅持する強い使命感。避けられない高い訴訟リスクと激務。この過酷な環境に立ち向かう献身的な医師たちに支えられているのが、日本の周産期医療の現実だ。
このような産婦人科医師の勤務環境の改善を図ろうと、日本産科婦人科学会の医療改革委員会は、「産婦人科医療改革グランドデザイン 2015」を作成。地域基幹分娩取扱病院を新たに設定し、産婦人科医師の重点化・集約化を行ないつつ、主治医制の廃止、交代制勤務の実現をめざしている。
何よりも最優先すべきことがある――。妊産婦と胎児・出生児を見守る産婦人科医師の人権を尊重しながら、産婦人科医師が永続的に活躍できる環境整備を急がなかればならない。
*参考:2015年1月に日本産婦人科医会が取りまとめたアンケート調査報告書
(文=編集部)