他の生徒や保護者に女子生徒がすでに退学したと虚偽説明
女子生徒はそれでもしばらく我慢を続けたが、結局2年生の夏には過呼吸やパニック障害などを訴えて不登校になった。この間、学校側は女子生徒の精神的苦痛や特殊な事情に寄り添うことはなく「母子家庭やから茶髪にしてるんか」と告げ、一方的に授業への出席を禁じた上に、秋の修学旅行や文化祭への参加も認めなかった。
あらゆる不定愁訴は複合的だ。単純に毛染めのせいなどではないが、毛染めを強要されつづけた大きなストレス、現実的な皮膚障害、修学旅行や文化祭への参加も認めないいじめ同様の学校側の対応が積み重ねられた結果であるだろう。
女子生徒は今年3年生に進級し来春には卒業予定だが現在も不登校が続いている。学校は生徒の氏名を生徒名簿から削除。ほかの生徒や保護者には女子生徒がすでに退学したなどと虚偽説明し、教室に席も用意していない。さらに校長は今年6月、女子生徒の代理人弁護士に対し「頭髪指導やその後の対応が不適切であるとの司法判断が出ない限り、学校として対応を変えるつもりはない」と強気の姿勢を示した。
女子生徒の身体的特徴を一顧だにせず、ルールの適用のみに固執する学校側の対応には、規律の遵守が求められる組織の関係者からも疑問の声が上がる。
ある警察関係者は「業務を遂行する上でいたずらに華美な服装や髪型は御法度だ」と前置きした上で「生まれつき茶色い髪の警察官に黒染めを強要することは考えにくい」と話す。警備業界の関係者も「中途半端に髪染めを強要すればパワーハラスメントに該当しかねない」と語る。
かつて東京の都立高校で生徒の茶髪やパーマが問題視され、地毛と訴えた生徒から「地毛証明書」を提出させていたことが明らかになった。女子生徒の母親は他府県の制度をもとに「地毛登録のような制度があれば申請したい」と担当教諭らに伝えていたが、学校側は応じず制度の導入を検討した気配すらなかった。
別の都道府県の高校の現役教諭は「高校生に一定のルールが必要なことは言うまでもないが、生徒の身体的特徴に配慮せずに毛染めを強要することは明らかな人権侵害といえる」と指摘する。
女子生徒の身体的な特徴を否定し続けた学校側の対応は、どこか一人ひとりの個性や特性を認めず異物を排除し不寛容な風潮を強める現在の日本と相似形のように見えて仕方がない。
(文=ジャーナリスト・瀬河栄一)