夫婦ふたり暮らしは、いつかは必ず「没イチ」に
「没イチ」は決して人ごとではない。
厚生労働省の国民生活基礎調査(平成25年)によると、「世帯構造別にみた世帯数の構成割合の年次推移」を見ると、「夫婦のみの世帯が23.2%」「単独世帯はそれを上回る26.5%」で、夫婦と独居でおよそ半数を占める結果となった。
同調査の「世帯構造別にみた65歳以上の者のいる世帯数の構成割合の年次推移」では平成25年の「夫婦のみの世帯は31.1%」。核家族で子供が独立すれば夫婦ふたり暮らしとなり、夫婦のどちらかが先に死ねば独居=「没イチ」となる。
もちろん、他の家族と同居していても配偶者に先立たれたら「没イチ」になるわけだが、独居と他の家族と同居では、配偶者ロスの長引きかたが違うだろう。とりわけ男性はなかなか立ち直れないことが多く、配偶者ロスがひどい場合には自死を選んでしまう人もいる。
しかし、「時間薬」とはよく言ったもので、多くの人は時間の経過とともに徐々に立ち直っていくものだ。だいたい「女性では約3年」と言われる。数年かけて配偶者の死から立ち直った没イチたちは、もう振り返らない。
人生を謳歌することにやましさを感じる必要はないからだ。そんな没イチに向けて、さまざまなサービスが花開いている。
まずは旅行。これまでツアーといえば夫婦や友人、家族単位での商品が多かったが、「おひとりさま」向け商品が各社国内外問わず増えてきている。中には婚活バスツアーなるものもあり、大きな期待を持って参加する没イチもいる。
また、カラオケ店ではひとり客が増えたことから、ひとりカラオケ専用ルームのある店、さらにひとりカラオケ専門店まで登場している。レストラン、居酒屋などでもひとり客用の席を設けている店も増えた。
「没イチ」の再婚を邪魔しているのは?
多くの没イチは「死んだ配偶者に操を貫く」などという考えから解き放たれている。シニア専門の結婚相談所、婚活パーティーを訪れるなど積極的に新たなパートナーを求める人も。
しかし、運よく新たなパートナーと巡り合えたとしても、茶飲み友達、あるいは恋人までなら問題はないが、結婚を考えると少なからず障壁がある。
まずは「子ども」だ。「いい年をして」「財産狙い?」「死んだお母さんに顔向けできるの」など反対されることがある。本音は相続すべき財産が減ることが不満なのだとしても、さまざまな理由を並び立てて反対し、しまいには「もう孫に会わせない」などと言われ泣く泣く結婚を諦めたという例もある。
もう一つの障壁は「年金制度」だ。例えば厚生年金に加入していた夫が亡くなった場合、妻は遺族年金を受給しているわけだが、この妻が再婚すると、遺族年金はもらえなくなるのだ。
その後、新しい配偶者と離婚したとしても、前の夫の遺族年金が復活することはない。こんなことから、再婚に二の足を踏んでしまう女性も少なくない。
日本人の平均寿命は伸び、2025年には団塊世代が一斉に後期高齢者となり、今後「没イチ」は増える一方だ。遺族年金は、亡くなった人が掛けていた年金を遺族が代わりにもらう制度だ。再婚してもその権利が失われないよう見直しが求められる。
(文=編集部)