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【連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」第6回】

糖質制限で血中のケトン体値アップで生命の危機!? 危険なケトン体値とは?

本当に危険なケトン体値はどのぐらいか?

 健康なケトーシスと危険なケトアシドーシス、どのように見分ければいいのでしょうか?

 基礎分泌インスリンが出ている人(1型糖尿病以外の人ほぼすべて)は、基本的に心配いりません。注意すべき状況は、大けがや重篤な感染症で、ひどい脱水状態になったときと、夏に脱水状態で一度に何リットルもの甘い清涼飲料水を一気飲みしたときだけです(ペットボトル症候群といいます)。

 とはいうものの「血液検査で大丈夫かどうかがわからないのは不安だ、数字で安全基準を示してくれ」という人は多いですよね。実はすでに参考となるデータは存在します。英語の書籍でまとめられているものに以下のような数値があります。

血中濃度 (μmol) :状態
200以下:ケトーシスではない
200〜500:軽いケトーシス
500〜3000 :栄養学的ケトーシス(生理的ケトーシス)
2,500〜3500:運動後ケトーシス
3000〜6000:飢餓時のケトーシス
15000〜25000:ケトアシドーシス
(出典:Volek, Jeff S.; Phinney, Stephen D. (2012). The Art and Science of Low Carbohydrate Performance. Beyond Obesity.)

 ケトーシスで最もケトン体値の高い飢餓時のケトーシスも生理的なもので、心配する必要ありません。この基準に従うと、病的なケトアシドーシスになるときのケトン体の血中濃度は、けた違いに高いことがわかります。このことから、余裕をもって見積もっても、健常人の10000μmol以下のケトーシスは心配しなくていいだろうと推測できます(1型糖尿病の人はもう少し低めに見積もる方が安全かもしれません)。

 実際に、2016年に保険診療として認められた重度てんかんの治療法として「ケトン食」療法があります。この食餌療法では、栄養学的ケトーシスから飢餓時のケトーシス程度かそれ以上のケトン体濃度に患者さんを維持しますが、ケトアシドーシスになることは通常ありません。

 ということで、糖質制限するときに血中ケトン体濃度が上がることを恐れる必要はない、むしろ、ケトーシス状態は積極的に作り出すべき血液の状態であると私は考えています。

 というのも、実はケトーシス状態にはさまざまなメリットがあることが、この1年ぐらいでいっきに明らかになってきたからです。そのことについては別の記事でお話させていただきます。

連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」バックナンバー

吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)

神戸市垂水区 名谷病院 内科勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。
その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。

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