リハビリの重要性をNASAとの共同研究で確信
めまいは「急性期」と「慢性期」がある。目の前がぐるぐる回ったり、冷や汗が噴き出したりする急性期は、安静第一。静かな暗い部屋で過ごし、楽な姿勢で体を休める。急性期は短い人で数時間、長くても1~3日間程度だと肥塚医師は語る。
その後は、めまいはほとんど消え、なんとなくフワフワした感じがしたり、体がフラフラしたりする慢性期になる。
「急性期の症状を和らげるために薬物療法は有効です。また慢性期の症状を軽くするためにも、薬が必要な場合はあります。しかし、めまいを薬で根本的に治すことはできません。不調だから休みたい気持ちはわかりますが、体を動かさなければ全身の血流が悪くなります。耳の血流が悪くなれば、内耳の働きも回復しません」
めまいの治療で肥塚医師が重視しているのが、患者自身でできる体操や運動である。
肥塚医師は1998年にNASA(アメリカ航空宇宙局)が計画した実験に参加し、宇宙船に乗って起こる「宇宙酔い」の研究を行った。この共同研究によって、体操や運動といったリハビリテーション(平衡訓練)の重要性を確信。それ以来、めまいの治療にリハビリテーションをどんどん取り入れていったという。
肥塚医師が考案した「寝転がり体操」などのリハビリテーションは、『めまいは寝転がり体操で治る』(マキノ出版)を参照してほしい。
「仕事では座りっぱなし、自宅でも横になってばかりでは、慢性期の症状はなかなか改善しません。散歩やウォーキングなど軽い運動を取り入れて、血流を改善させるとともにストレス解消を図るのをお勧めします」
(取材・文=森真希)
肥塚泉(こいづか・いずみ)
聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科教授。1981年、聖マリアンナ医科大学卒業後、大阪大学医学部耳鼻咽喉科、米国ピッツバーグ大学医学部耳鼻咽喉科、東大阪市立中央病院耳鼻咽喉科などを経て、95年、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科講師。97年、助教授。2000年、教授。同大学の「めまい外来」を率いて、これまで5万人以上を診察し、問診と検査でめまいを解決してきた。診療のほか、めまい疾患に対するリハビリテーション法の考案や、宇宙酔いに関する研究にも力を入れている。1998年には、NASAとの共同研究によりスペースシャトル・コロンビア号上で、宇宙酔いに関する実験も行った。テレビや新聞などメディアでも活躍中。
森真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。