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【シリーズ「AIと医療イノベーション」第12回】

人工知能が東大受験や医師国家試験に合格できるか? 臨床現場にAIがデビューする日

正答率は55.6%! AIは医師国家試験に合格できるか?

 さて、昨年の医師国家試験の合格率は91.5%。医師国家試験が年1回の実施となった1985年以降では、2年連続で過去最高を更新しているが、AIは医師国家試験にもチャレンジしている。

 2015年9月、慶應義塾大学理工学部生命情報学科の榊原康文教授らの研究グループは、医師国家試験を自動解答するAIプログラムを日本で初めて開発した。AIは、その後も進化を続け、医師国家試験の臨床問題の正答率55.6%(過去の合格者の平均正答率66.6%)に達している(日経デジタルヘルス2016/12/12より)。

 AIは、どのように医師国家試験に答えるのだろう?

 たとえば、「70歳女性。左上腹部痛を主訴に来院した。昨夜、久しぶりに孫と遊んでいたら、3時間後から左上腹部に痛みを感じるようになった。食事摂取は良好。原因と考えられる病名はどれか? a.急性膵炎 b.腹壁血腫 c.腸腰筋膿瘍……」などと示される。

 この問題文を入力すると、AIが文章を解析し、「女性」「腹痛」「嘔吐」「下痢」などの単語や、「脈拍88/分」、「呼吸数112/分」などの数値を抽出。前後の単語を根拠に数値の意味を判断し、症状のプロファイルを作成する。

 診断は、AIが判断に用いる解析ルールに基づいて行う。たとえば、S状結腸捻転なら、腹痛1点、便秘0.5点、男性1点、腸閉塞1点、虚血性大腸炎なら、腹痛2点、便秘1点、男性0点、腸閉塞0点というように、AIが疾患に対して主訴、典型的患者像、症状に点数を付ける。その点数の合計点に基づいて診断を下す。

画像付き問題の正答率は64.7%と高いが、時間軸を読み取れない

 さらに、医師国家試験の過去問などの学習素材を追加すると、変数(主訴や症状など)と答え(疾患名)の関係性を認識し、機械学習を重ねるので、正答率がアップし、より適確な診断を下せる。しかも、画像付き問題の正答率は、64.7%と高いという強みがある。だが、課題はある。

 AIは、問題文中にある時系列の情報の意味を理解できない。たとえば、1カ月前に発熱があった、1週間前に発疹が出たなどと羅列されると、その時間軸を正確に読み取れない。自然言語解析の改良が必要になる。

 臨床現場にAIがデビューする日は来るだろうか?

 AIの大きなメリットは、患者の情報を漏れなく取り込み、医師が見逃しやすい情報を提案できることだ。AIがさらに進歩し、医師が気付かない症状をピックアップできれば、医師とAIが補完し合える。

 AIは専門性を持たないので、バイアスも掛かりにくい。AIが臨床的に有意な評価やエビデンスを蓄積すれば、患者に最適な診断・治療・処方を下すのも夢ではない。

 AIは東大に入れるか? 医師国家試験に合格できるか? 東大や医師国家試験の突破は、AIにも人間にも最難関だ。しかし、AIがどれほど進化しても、AIが越えられない、奪えない人間ならではのスキルがある。クリエイティビティ、リーダーシップ、アントレプレナー・マインドだ。

 作家、デザイナー、エンジニアのように、0から発想し知的資産を創発するクリエイター、卓越したコミニュケーション能力で人々を導くリーダー、交渉力のセンスや問題解決力を発揮する起業家、この3つのスキルだけは、AIでも肩代わりできない。だが、医師の職域は、AIでも担える領分があるように思える。

 ただ、答えは1つではない。AIにも医師にも選択肢はある。医師とAIが補完し合い、共同作業に努めつつ、より診断・治療の精度を高め合うAI共生時代が、刻々と迫っている。
(文=編集部)

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