飼い犬がお腹をこわして動物病院に行くと、見覚えのある整腸剤を処方されて「アレレ?」と拍子抜けすることがある。
実は動物病院で処方される薬の多くは、人間が服用するのと同じ薬だ。
本来は動物専用の薬があるべきだが、犬や猫の治療に必要な成分はヒトと一致する場合が多い。製薬会社は、わざわざ莫大なコストをかけて製品化するメリットがない。特別なもの以外は、ヒトと同じ薬を用いたほうが、飼い主の懐にもやさしいのだ。
だが、いくら同じ薬といっても、獣医の処方を受けずに飼い主の判断で、自分の薬を飲ませてはいけない。
体のサイズも違えば、ヒトとの代謝能力も違う。安易な服薬によって、重篤な中毒を起こす危険がある。
さらに、ヒトにとっては高性能な薬でも、犬や猫はごく少量で致死に至る場合もある。
牙先に少量ついただけでも致死量に
米国食品医薬品局(FDA)は先月、皮膚がん治療用のクリームを誤って舐めた飼い犬が死亡するケースが、相次いで5件も発生したことを報告した。
問題に挙げられたのは、抗腫瘍効果があると認められている「フルオロウラシル」。消化器系がんの注射薬や、皮膚がん患者用の塗り薬として一般に使用されている。シミやソバカス、肝斑などに効くスキンケア医療品としても流通し、誰でも入手できる。
その「フルオロウラシル軟膏5%」を、わずかに舐めただけでも、ペットの異常や死亡につながることがあるという。
死亡例のひとつでは、飼い犬が軟膏薬のチューブを口に入れて遊んでいるうちに、牙が容器に刺さって穴が空き、そのときに漏れたごく小量の軟膏を舐めた。
すると犬は、嘔吐やけいれんなどの症状を起こした後、12時間後に亡くなった。
別の事例では、犬がチューブの中身を食べてしまい、飼い主がすぐに獣医の元へ連れて行ったが治療の甲斐なく、3日後に安楽死を選択したという。