実際に診察した急性メタノール中毒による自殺未遂の事例
しかし、自殺目的でメタノールを飲用する症例は、依然として散見される。
飲用後、数時間は激烈な症状を伴わない例も認められるが、その後の失明や、呼吸器や循環器への症状が重篤だ。治療法方法は、推定メタノール血中濃度が40mg/dl以上であれば、積極的に血液透析を行うのが効果的である。つまり、早期にメタノールを体外に排泄させることが肝要なのである。
10年ほど前に、ウインドーウオッシャー液を飲んで自殺を試みた30歳代のサラリーマンの男性を診察したことがある。彼は、数カ月前より職場の上司や同僚との折り合いが悪化し、さらに妻との不和なども重なり落ち込んでいた。
自宅で一人になった時、事前に購入していたウインドーウオッシャー液(100ml)を飲んで自殺を図った。次第に嘔気、腹痛、頭痛を訴え、約2時間後に妻が外出より帰宅した際、ウインドーウオッシャー液を飲んだことを伝えた。
3時間後に救急搬送され、来院時、メタノールを飲んだことが確定したため、推定血中濃度を測定。その数値は、65mg/dlと高値であった。即座に胃洗浄を行い、その後、血液透析を5時間行った。終了後の濃度は7.5mg/dlと著明に減少した。
幸い視力低下などの眼症状はなく、患者は4日後に退院することができた。
メタノールの危険性はまだまだ広く認識されていない。