国際競争力を培う産官学連携のAI創薬プロジェクトも動き始めた
日本の新薬開発は、欧米諸国に大きく水を開けられている。
たとえば、米国のAI創薬の革新はとにかく速い。創薬ベンチャーのバーグ(マサチューセッツ州)は、AIを活用して脳や膵臓など40種類以上のがん細胞と健康な細胞の約14兆件ものビッグデータを比較・分析。新たな抗がん剤の開発に大成功し、治療に多大な貢献を果たしている。同じくアトムワイズ(カリフォルニア州)も、最先端のAIがエボラ出血熱に有効な候補薬をわずか1日たらずで発見し、世界を驚かせた。
日本経済新聞電子版(2016年9月23日)によれば、このようなグローバルな新薬開発競争が激化するさなか、国内製薬大手の大きなブレークスルーの追風を受け、厚生労働省は、高い効果の見込める画期的なAI新薬の開発を後押しするAI創薬プロジェクトをようやく打ち出した。
たとえば、巨額のコストがかかる抗がん剤なら、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所などの研究機関が、抗がん剤のシーズ(種)を発見しながら、AIを活用した新薬開発に専念する。日本の医療費41.5兆円(2015年)に占める治療薬のコスト比率は約20%だが、AI創薬プロジェクトなら医療費を大幅に抑制できると見込んでいる。
どのようにプロジェクトを進めるのだろう? まず、民間企業が開発したAIを導入→AIが抗がん剤に関する国内外の膨大な論文やデータベースを読み込む→AIが学習・推論して見つけた候補薬のシーズ(種)を動物実験などの非臨床試験で検証→AIが検証した結果を学習・フィードバック→候補薬の分析力を蓄積・活用→臨床試験→製造承認の申請・審査→承認・販売という流れになる。
このAI創薬プロジェクトの推進役は、医療研究の司令塔である日本医療研究開発機構(AMED)を核に、理化学研究所、産業技術総合研究所などが結集する創薬支援ネットワークだ。激しい新薬開発競争に晒されている日本の創薬力は低いことから、厚労省は有力な研究機関を結束し、産学官連携を強化しつつ、AI創薬に国ぐるみで取り組む見込みという。
3億5000万円を投入するAI創薬プロジェクトは、来年度から立ち上がる。産学官連携がAI創薬の新たなブレークスルーになるかもしれない。期待したい。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。