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【シリーズ「AIと医療イノベーション」第5回】

AI(人工知能)で「新薬」の開発が変わる!国際競争力を培う産官学連携プロジェクトも始動

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AI(人工知能)が「創薬」を変えている(shutterstock.com)

 2016年、「創薬」の世界に空前絶後のパラダイムシフト(劇的な変化)が起きている。その兆しは捉え切れないほど速く、複合的だ。何が起きているのか?

 台風の目は人工知能(AI)だ。ビッグデータから最新の情報と知見を再構築するAIを創薬に活かそうと、IBM Watsonやディープラーニング(深層学習)を利活用するチャレンジが始まっている。

AIが創薬を効率化する

 新薬開発は、十数年もの莫大な時間と数千億円の先行投資が必要になる。だが、新薬は流動性が高く、市場の需給原理で動きやすいため、失敗のリスクは避けられない。

 国内NO.3の売上高(9864億円)を誇る製薬大手の第一三共は、2016年2月18日に日本語版の提供をスタートしているWatsonをいち早く導入した。第一三共は売上高の約20%を新薬開発に投入しているが、Watsonなら新薬開発の成功率がアップし、新薬をスピーディに臨床現場へ届けられる。治療に役立てば、社会に貢献でき、高収益も確保できる。それが第一三共の狙いだ。

 Watsonがアシストする新薬開発サイクルは以下のようになる。

 ビッグデータにある数100万種類の化合物ライブラリーを一括検索→新薬の標的となるタンパク質の情報リストを比較・入手→新薬の候補となる化合物をスクリーニング(選別)→新薬の候補となる誘導体2000種類を合成→製品化できる確率の高い化合物の絞り込み・検証→非臨床試験→臨床試験→製造承認の申請・審査→承認・販売。

 Watsonなら、この一貫した新薬開発サイクルを迅速かつ効率的に稼働させ、ビッグデータの解析から報告までを確実に行いながら、研究テーマの選定や開発管理プロセスの支援、発売済み薬品の副作用情報の収集も包括的に実行する。その帰結として、創薬に費やす時間とコストの短縮化につながる。
 
 有効な医薬品情報を絞り込み、創薬を効率化するWatson!  新薬成功のカギを握るのは、Watsonかもしれない。

効率的なスクリーニングやディープラーニングがAI創薬を加速する

 このようなAI創薬の先駆的な試みは、第一三共だけではない。

 今年3月、アステラス製薬と田辺三菱製薬は、両社が保有する約50万種類の化合物ライブラリーを相互に交換・利用する業務提携を交した。この提携によって、両社は高性能のAIロボットを活用し、質的に異なる化合物ライブラリーへ相互にアクセスしながら、より広範なハイスループットスクリーニング(HTS)を実行できる環境が整ったため、新薬のシーズ(種)となる化合物を創出するスピードが加速した。

 ハイスループットスクリーニング(HTS)とは、多数の化合物の中から創薬の標的に反応し、新薬のシーズ(種)につながる良質の候補化合物を高性能のAIロボットが高速で探索するスクリーニング(選別)技術だ。この提携を期に、両社が保有する情報資産と知見を相互に活用しながら、両社の強みを活かして、革新的な新薬を開発することをめざしているのだ。

 一方、武田薬品工業は、フランスの製薬大手イプセンと業務提携。ディープラーニング(深層学習)の手法を導入した有効性の高い新薬の共同開発ビジネスを立ち上げている。

 また、大塚製薬はAIを活用した精神科治療支援ソフトの共同出資会社を日本IBMと設立。Watsonが精神科病院の電子カルテを解析し、数値化が困難な精神疾患の症状などのデータを医師に提供、医師の治療をバックアップしている。この分野でもWatsonの貢献力が光っているようだ。

 さらに、塩野義製薬は、超高速AIロボットを採用し、臨床試験の解析業務を自動化した結果、ヒューマンエラーが抑えられ、新薬開発に費やす臨床試験の期間とコストを劇的に圧縮している。

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