そもそも、それほど肉や魚を食べなくてもよい
南さんが上梓された『行ってはいけない外食』には、驚くようなデータが紹介されている。
厚生労働省が行った平成25年度の「食肉検査法情報還元調査」によると、屠畜場に連れてこられた豚の約60%、牛の約66%が、病気のため全部、あるいは一部が廃棄されている。
(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001149975)
つまり、畜産農家で育てられる牛豚の6割以上は病気であるということだ。そして、一部を廃棄された残りの肉は、出荷され、私たちの口に入る。
「消費者が『肉を安価な値段で食べたい』と望むから、畜産農家はそれに応えるべく生産してきた。その結果がこれです。でも、一部、あるいは全部を廃棄せざるをえないような肉を、そこまでして食べる必要があるのでしょうか?」と南さんは言う。
魚にしても同じ図式が見える。消費量に追いつかないから、今まではけっして食の対象にはならなかった正体不明の深海魚も取って売ろう、海外の類似魚を仕入れよう、ということになる。
しかし、栄養学的に見ると、肉や魚をそこまでして摂る必要はないのである。WHO(世界保健機構)のガイドラインによれば、人間が1日に必要なタンパク質は、体重1kgあたり0.6~0.8g。体重が50kgなら30~40gである。牛モモ肉100gに含まれるタンパク質が20g強なので、穀物(米)と豆で植物性たんぱく質を摂ることを考えると、肉の摂取量は1日で100gでも十分ということになる。
良質なものを感謝しておいしくいただく
「おもいきって食べる量を減らすことが大切です」と南さんは説く。そのかわり、良質なものをおいしくいただく――。
良質な物を生産するには手間暇がかかるので生産量は減るだろう。しかし、食べる量が減れば、需要と供給のバランスは成立するはずだ。
生産者は、愛情を込めて良質な食材を育てる。消費者は、それに対して正当な対価を払い、感謝しながら食べる。そうした理想的なサイクルを実現させるために、私たちが今からできること、しなければいけないことは、たくさんあるのではないだろうか(続)
(インタビュー・文=梶浦真美)
南清貴(みなみ・きよたか)
EPIC LLC./Atelier KIYO代表。フードプロデューサー。一般社団法人日本オーガニックレストラン協会 代表理事。
舞台演出の勉強の一環として整体を学んだことをきっかけに、体と食の関係の重要さに気づき、栄養学を学ぶ。1995年、渋谷区代々木上原にオーガニックレストランの草分け「キヨズキッチン」を開業。2005年より「ナチュラルエイジング」というキーワードを打ち立て、 全国のレストラン、カフェ、デリカテッセンなどの業態開発、企業内社員食堂やクリニック、ホテル、スパなどのフードメニュー開発、講演活動などに力を注ぐ。 最新の栄養学を料理の中心に据え、自然食やマクロビオティックとは 一線を画した新しいタイプの創作料理を考案・提供し、業界やマスコミからも注目を浴びる。 日本オーガニックレストラン協会では、オプティマルクッキングアカデミーを開講し「家庭料理のシステム化」を教えている。親しみある人柄に、著名人やモデル、医師、経営者などのファンも多い。2011年「農」に密着した活動を行うことを決意し、岐阜県大垣市に拠点を移す。