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【連載「死の真実が“生”を処方する」第29回】

睡眠薬が犯罪に利用される〜インターネットでの“闇売買”の摘発を

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睡眠薬が犯罪に利用される(shutterstock.com)

 不眠症の人に有効な治療法は、睡眠薬の内服――。

 寝付けないと訴える人に有用な睡眠導入薬の中で「超短時間作用型」を使用すると、服用して数分も経たないうちに眠りにつくことができます。そして、翌朝まで効果が持ち越されず、目覚めも良いといわれています。

 日中と夜間の勤務が変動する勤務の方や、海外出張などで時差ぼけになってしまった方にも重宝されています。

 しかし、一部の睡眠薬が犯罪に用いられることがあります。睡眠薬が犯罪に利用される点について、背景を含めて述べていきましょう。

効き目が現れるまでの時間や血液中に残っている時間でタイプを分類

 脳に作用して精神機能に変化を及ぼす薬物を総称して「向精神薬」と呼びます。アルコールやタバコなども精神機能に影響を与えますが、一般には医薬品に限定して用いられる言葉です。

 向精神薬の中には、統合失調症の治療などに用いられる抗精神病薬、不安を取り除く抗不安薬、てんかん発作を予防する抗てんかん薬、睡眠状態を改善する睡眠薬などが含まれます。

 睡眠薬は体の中に吸収されると分解されて排池されますが、効き目が現れるまでの時間や血液中に残っている時間の長さによって、超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型に分けられます。

 ですから、短時間作用型は寝付けないといった入眠障害の治療に適しています。中間作用型や長時間作用型は薬の作用が長く続くので、途中で目が覚めてしまうような人に有効です。

 ですが、翌朝になっても効果が続いていることがあるので、目覚めが悪い、日中もボーッとしてしまうなどの問題点もあります。

アルコールとの服用で健忘作用が

 皆さんの中には、多量に飲酒した際に記憶が飛んでしまう(健忘)経験をされた方がおられるかと思います(筆者もあります)。一部の睡眠薬を飲んだ時に、この作用がみられることがあります。睡眠薬を飲んでから後のことを覚えていないという状態です。

 これを「前向性健忘」と言います。睡眠薬を飲んでから寝付くまでのことを覚えていない、あるいは睡眠中、一度目を覚まして起き上がり、何らかの行動をとってから再び寝たことを覚えていないなどがあります。

 短時間作用型の睡眠導入薬では、服用後、短時間での入眠を期待していますから、基本的に布団に入る直前に内服することが前提になっています。ですから、正しく使用すれば大きな問題は生じません。しかし、アルコールと一緒に服用すると、健忘作用が出やすくなるとも言われています。

 このような作用を利用して、他人に飲ませるなどして事件が起きることがあります。ですから、昏睡強盗などの犯罪が生じる背景には、このような一部の睡眠薬が使用される背景があるのです。

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)

滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。社会医学系指導医・専門医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

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