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「死なせてほしい」と懇願される訪問看護師の心の闇〜映画『或る終焉』で描かれる驚愕の決断

看護師はうつ病リスクが高い?

 在宅ケアというと、医療・介護従事者でなければ、家族や自分自身に近い患者側の苦悩に目が行きがちだ。だが、当然ながら重責を担う訪問看護師も多くの悩みを抱えている。

 患者や家族とのコミュニケーション。医師のいない現場での不安や緊張。深刻な人手不足。さらにはデヴィッドと同じように、患者から「治療を受けても痛みがとれないから死なせてほしい」「家族に迷惑をかけたくないからどうやったら死ねるか教えてほしい」と言われることもあるという。

 「自分にとって死と喪失は人生の一部であり、その仕事は慢性的なうつ病をももたらすこともある」。これはミシェル・フランコ監督が、自身の祖母の終末期を担当した看護師から聞いた話だ。看護師は患者の死を前に、自分のしている看護の意義に疑問を感じてしまうこともある。また、患者の心身の負担を和らげるはずが、逆に大きな不安や絶望を抱えてしまうことも少なくない。訪問看護師に限らず、看護師という職業は重圧やストレスから、うつ病の発症リスクが高いといわれている。

 肉体的な重労働に負われる訪問看護師に、さらにのしかかる精神的負担。将来、看護をサポートするロボットが普及すれば、体の負担は軽減できるかもしれない。しかし、やはり患者が必要としているのは、“心”がある生身の人間で、その役割を取って代わられることはないだろう。

 看護師、そのほかの医療・介護従事者、患者やその家族――置かれている立場によって違いはあるだろうが、この作品の看護師のリアルな看護や内側の葛藤を見た人の胸には、さまざまな思いが去来するはずだ。
(文=編集部)

『或る終焉』
2015年/メキシコ、フランス/94分/カラー
監督:ミシェル・フランコ
出演:ティム・ロス、 サラ・サザーランド、 ロビン・バートレットほか
配給・宣伝:エスパース・サロウ
提供:ギャガ
©Lucía Films–Videocine–Stromboli Films–Vamonos Films–2015 ©Crédit photo ©Gregory Smit
公式サイト:chronic.espace-sarou.com
5月28日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開

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