微妙な感情や感覚を伝える時には方言が便利
医療現場で飛び交う方言に、戸惑う医療者は多い。
富山大学医学部看護学科の4年生(65名)を対象とした調査では、「実習中、患者さんの話す方言でわからなかったことがありますか?」という質問に対し、「はい」と答えた人は32.4%もいたそうだ。
ただし、医療現場での方言の使用に対して「良いこと」と捉えている人は多く、8割近くにも及んだ。その多くは、方言を使用することで細かいニュアンスが伝わりやすいとか、会話がスムーズに進むと考えているようである。
方言へのこだわりには地域差がある。国立国語研究所の相澤正夫教授の研究によると、共通語との使い分け意識が低い「積極的方言話者」の割合は、近畿地方で最も高く、次いで中国地方、東海地方、九州地方で高い数値が得られている。
また、同研究所では医療現場で用いられる専門用語をわかりやすい用語に換えようとする研究も進んでいる。
方言は概ね高齢者が使用する傾向にあり、今の若者には標準語を話す人が多い。標準語化が進んでいるため、方言を知らなくてもいいと考えている医師もいるかもしれない。
さらに、医療現場で方言が使われるために生じる問題にたいして、こうした試みがどれほどの解決策を提供できるかの評価もなされていない。
今後は方言研究者だけではなく、医療関係者、医療職を巻き込んだ具体的な検証に期待したい。
(文=大澤法子)