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4月から開始される「患者申出療養制度」は、難治患者に対する大きな欺瞞だ!

国民本位の規制改革はポーズにすぎなかった

 治療を最優先とする本来の患者申出療養では、このワクチン療法はすべてのがん患者が対象になるであろう。また筆者の乏しい知識で挙げても、先進国承認の薬剤などは個人輸入されているようなものも含めて付帯情報に注意しながらもほとんど認められるだろう。現在日本に設置されている重粒子線などの放射線療法も、ある程度科学性のある免疫療法も対象になるだろう。

 患者申出療養といっても、患者が無知盲目的に申し出るのではない。自らも探求し、主治医とも十分に協議して、経済的にも考慮し、納得して申し出るのである。さらに判断基準である有効性は、難治患者にとって科学者や医師とは異なる意味を持っている。臨床研究の結果、たとえば薬剤は20%前後を境に有効性が決められるらしいが、患者は自分が10%のうちに入るかもしれないと考える。安全性についても治験に臨むのと同じである。治験でさえ患者は試験や研究のために参加しているのではない。治りたい、助かりたいのである。

 番組で明らかにされた患者申出療養制度は、保険治療の尽きた難治の患者の期待を裏切り、希望を挫くものである。治療の選択肢は広がらず、患者たちは、旧態依然の惨状に留め置かれることになる。患者申出療養が難産の末誕生した時点で、混合診療の不毛な神学論争には終止符が打たれたはずである。

 命が金次第になる、医療平等が壊れる、有効性・安全性のない医療が跋扈する、不当な医療費を請求される、患者がモルモットになる、先進医療の保険収載が遠のく、国民皆保険が崩壊する等々―患者申出療養の当初の制度設計ではそれらに配慮して、実施する医療機関を限定し、承認の審査機能を確立したのである。

 それにもかかわらず、内閣の作った器に盛られた中身は、神学論争に戻った時代の、患者の治療向上に寄与しない、カビの生えたものだった。しかも国の専門家会議での審査はたった10人程度で行われるという。厚労省は制度が患者の思いに応えるものと胸を張るが欺瞞であり、恥知らずである。内閣も官僚に制度設計を任せるとどうなるかを知り尽くしているのに、みすみす骨抜きを見逃したわけで、国民本位の規制改革はポーズだったといわざるを得ない。

がん患者/清郷伸人
(2016年3月28日 MRIC より転載)

清郷伸人(きよさと・のぶひと)
2000年、腎臓がんになり、摘出手術、翌年頭部蝶形骨と頚部に移転し治療中。
05年治療中に混合診療問題に直面。保険医療制度の矛盾、患者軽視の行政や既得権益に執着する医師会などに怒り「混合診療を解禁せよー違憲の医療制度」を出版。混合診療を求める裁判の原告となった。07年年11月の東京地裁判決では、清郷氏の請求を認めたものの、09年9月の東京高裁判決では一転して請求を却下。11年10月、最高裁は上告を棄却、混合診療の禁止は適法であるとする判決を下した。

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